2021年12月24日金曜日

【読書感想文】横山 秀夫『ノースライト 』~建築好きに贈る小説~

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ノースライト

横山 秀夫

内容(e-honより)
北からの光線が射しこむ信濃追分のY邸。建築士・青瀬稔の最高傑作である。通じぬ電話に不審を抱き、この邸宅を訪れた青瀬は衝撃を受けた。引き渡し以降、ただの一度も住まれた形跡がないのだ。消息を絶った施主吉野の痕跡を追ううちに、日本を愛したドイツ人建築家ブルーノ・タウトの存在が浮かび上がってくる。ぶつかりあう魂。ふたつの悲劇。過去からの呼び声。横山秀夫作品史上、最も美しい謎。

 バブル崩壊の影響で離婚して失意の中にあった建築士・青瀬は、「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」という施主・吉野の依頼を受け、設計を請け負う。完成した「Y邸」は建築界から高い評価を受け、青瀬の代表作となる。だが数ヶ月後、Y邸には誰も住んでいない、それどころか引っ越した形跡すらないことが判明する。Y邸にあったのは一脚の椅子だけ。
 はたして吉野一家はどこへ行ったのか。青瀬は、残された「タウトの椅子」を手掛かりに吉野の行方を探す……。


 青瀬の少年時代の記憶、離婚前の家庭の記憶、ブルーノ・タウトの椅子、雇い主との関係、同僚の不倫のにおい、入札コンペ、かつての恋敵との再会……。様々な出来事が語られる。
 あれやこれやと詰め込んでいるが、終盤までなかなか収束しない。大丈夫か、これ風呂敷畳めるのか……とおもっていたら、ちゃあんと決着。さすが横山秀夫氏。うまい。

 うまいが、これだけの分量を割いてこれか……という気持ちも若干ある。

「吉野一家はどこへ行ったのか、なぜ青瀬にY邸の建築を依頼したのか」という最大の謎も、わかってみれば「なーんだ」というぐらいのもの。「えっ、あの人がまさか!?」「そんな意外な真実が!?」と驚くほどのものではない。
 というか「いくら父親の遺言だからってそこまでやらんだろ……」って感じなんだけどね。

 これまでの人生で数多く傷ついてきた中年の悲哀を描いた小説、とおもって読めばしみじみ味わい深いかもしれないけど、ミステリだとおもって読んだぼくにとっては正直期待外れだった。
 すごくうまく風呂敷を畳んだけど、畳んでみたらものすごくこじんまりとしてた。そんな気分。




 ミステリとして読むより、建築小説として読んだほうがいいかもしれない。

「北向きの家」を建てる。その発想が浮かりと脳に浮かんだ時、青瀬はゆっくりと両拳を握った。見つけた。そう確信したのだ。信濃追分の土地は、浅間山に向かって坂を登り詰めた先の、四方が開けた、この上なく住環境に恵まれた場所だった。ここでなら都会では禁じ手の北側の窓を好きなだけ開ける。ノースライトを採光の主役に抜擢し、他の光は補助光に回す。心が躍った。光量不足に頭を抱えたことのない建築士がいるなら会ってみたい。住宅を設計する者にとって南と東は神なのだ。その信仰を捨てる。天を回し、ノースライトを湛えて息づく「木の家」を建てる。北からしか採光できない立地条件でやむなくそうするのではなく、欲すればいくらでも南と東の光を得られる場所でそれを成す。究極の逆転プラン。まさしくそう呼ぶに相応しい家だった。
 青洲は憑かれたように図面を引いた。平面図。立面図。展開図。断面図。描いては捨て、描いては直しを繰り返した。採光のコンセプトが家の外形を決定づけたと言っていい。北面壁を最高軒高とする一部二階建て。北向きの一辺を思い切り長く引き、南側の辺を大胆に絞り込んだ台形状の片流れ屋根。縮尺二十五分の一の大きな模型を作って内部の光の当たり方を吟味した。季節ごと、時間ごとの入射角を計算し、屋内の構造と窓の位置・形状を決めていった。そして、それでも足りない光量を補うために、いや、この家を真に「ノースライトの家」たらしめるために、苦心惨憺の末考案した「光の煙突(チムニー)」を屋根に授けた。

 こんな感じで、随所に建築に関する記述が出てくる。正直言って建築に興味のないぼくにはちんぷんかんぷんだ。「よう調べたなあ」とおもうばかりだ。

 よく「医師が書いた医療ミステリ」とか「元銀行員が書いた経済小説」とかはあるじゃない。むやみに専門用語が並ぶやつ。

『ノースライト』も、油断しているとあの類かとおもってしまうんだよね。建築士が書いたんじゃないかと。横山秀夫氏の経歴を知らない人が読んだらそう信じるんじゃないかな(ちなみに横山秀夫氏は元新聞記者)。

 とにかく、「よう調べたなあ」という感想がまっさきに出てくる。建築好きならもっと楽しめるのかもね。


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