予約が嫌いだ。
予約をするとものすごく脳のリソースをとられる。
○月○日○時にあのお店を予約したからその前後に他の予定を入れちゃいけない、どうしても外せない用が入ったら早めにキャンセルの電話を入れなくちゃいけない、○時に着くためには○時に家を出なくちゃならない、何かあるかもしれないからそれより30分は早めに出た方がいい、それまでに事故とか急病とかになったらキャンセルの連絡ができないかもしれない、そしたらお店に迷惑をかけてしまう、事故にも病気にも遭わないようにこの1週間はつつましく生きなくてはならない。
そんな「かもしれない運転」を強いられる。しんどい。
ぼくが10分カットの床屋を利用するのは、予約が嫌いだからだ。あと安いから。
10分カットは、実はさして早くない。休日に行くと30分以上待たされることもある。だったら美容院を予約して、行ってすぐ切ってもらうのと変わらない。
でも10分カットは予約しなくていい。予約して1週間「かもしれない運転」に苦しめられることをおもえば、1時間待つぐらいぜんぜんたいしたことじゃない。
いっとき腰が痛くて整体に行ってたけど、毎回予約をしなくちゃいけないのがつらかった。腰の痛みよりも予約の痛みのほうが大きいぐらいだ。なんだ予約の痛みって。
歯医者や整骨院に行くと、治療を複数回に分けてすぐに次回予約をさせようとする。よく知らないけど、保険点数を稼ぐための事情とかがあるんだろうか。ああいやだいやだ。3時間かけてもいいから1回で済ませてくれ。
ホテルの予約なんてぞっとする。
美容院や歯医者ならせいぜい30分か1時間ぐらいのものだが、ホテルを予約したら部屋をまるまる一室、一両日も空けてくれるのだ。ひゃあ、申し訳ない。ぜったいにキャンセルできないじゃないか。
とはいえホテルを予約せずに旅に出る勇気はぼくにはない。
ぼくが「旅行に行きたい」とおもいながらほとんど旅に出ないのは、予約が嫌だからだ。
「いつか行きます。明日かもしれませんし、十年後かもしれません。いつ行っても泊まれるようにしておいてください」
っていう予約ができたらいいのにな。そんな、ささやかすぎる願い。
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