2021年12月13日月曜日

デス・ゲーム運営会社の業務

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 デス・ゲームの運営会社で勤務している。

 デス・ゲームってのはあれだ。
 参加者を強制的に一箇所に集めて、覆面の男からの
「みなさんにはこれからゲームをしてもらう。かんたんなゲームだ。クリアしたものには賞金が与えられる。ただし失敗した場合は、ちょっとした罰が待っている」
的なメッセージからはじまって、多少の戸惑いはあっても結局は素直に参加して、最初の犠牲者が出て、参加者が力を合わせて謎を解いていって、健闘むなしく次々に命を落としていって、ひとりかふたりだけがクリアして、最後に意外な人物が黒幕だったことが判明して……っていう例のあれだ。

 きっとみんな漫画や映画で一度や二度や三十度は観たことがあるだろう。中学生が大好きなストーリーだ。

 あのデス・ゲームをうちの会社が運営している。

 といっても、デス・ゲームの企画や進行はおれの仕事ではない。企画部や運営部は花形なので、おれのような冴えない社員は任せてもらえない。今の部署で頭角を表せば抜擢されることもあるが、そんな例は十年に一度あるかどうか。基本的には採用段階で決まっている。有名大学のクイズ研究会にいたやつとか、大手広告代理店出身者とかがそういった花形ポジションに就くことになる。
 ちなみに進行役(「君たちにはちょっとしたゲームをしてもらう」的なことを言う人)は、プロの声優に外注している。進行役には凄みがないとリアリティがないので、そこだけはプロに任せている。


進行役さんの衣裳(一例)


 おれがいる営業部がやっているのは、もっと地味な仕事だ。

 たとえば会場の確保。デスゲームは殺人や監禁など法に触れることをするので、証拠を残さないためにも同じ場所は二度と使えない。
 なので毎回会場を新たに探さないといけないのだが、これが大変だ。
 人里離れた場所で、十分なスペースが必要。できれば携帯の電波が入らないことが望ましい。
 かといってあまりにへんぴな場所だと電気が使えないので、それはそれでなにかと不便だ。
 なかなか国内にはちょうどいい場所がない。国外ならあるのかもしれないが、参加者を眠らせて海外の会場まで運ぶのはまず不可能。
 会場の確保は毎回苦労するところだ。山の中に小屋を建てたこともある。


 それから、設営、警備。
 必要な機材を搬入・搬出したり、人が近づかないように警備をしたり。参加者の叫び声を聞きつけて警察がやってくることもあるので、ダミーのために会場から少し離れたところにテントを張り「キャンプで酔っぱらってばか騒ぎをしている若者」を演じたりもする。

 コンサートなんかだとイベント会社が学生バイトを使ってやってくれるらしいが、情報が漏れるのを防ぐために外注はしない。最近の若いやつはすぐにSNSで拡散するから。

 リハーサルも何度もやる。参加者の役になって、本番さながらにゲームに挑戦するのだ。失敗しても殺されないこと以外は本番と同じだ。進行役の声優さんにも来てもらう。


 営業部なので、もちろん営業もやる。

 デス・ゲームは金持ちの出資によって成り立っている。
 みんなも見たことがあるだろう。「庶民の命を賭けた殺し合いを、モニター越しにワイン片手に楽しむ金持ち」を。

 ただあれはフィクションならではで、本当はちょっと違う。
 金持ちが見るのは事実だが、リアルタイムで視聴なんかしない。リアルタイムだと間延びして退屈で見ていられない。こっちが編集したり効果音をつけたりドラマチックにしたものを楽しむのだ。金持ちはそんなにヒマじゃない。

 サブスク型の有料チャンネルで配信している。無料版もあるので、よかったらぜひ検索してみてほしい。もちろん暴力や殺人などの描写は有料会員限定だ。

 デス・ゲームは、有料会員による月額利用料と広告料によって成り立っている。基本的には金持ちが楽しむコンテンツなので、広告出稿したい企業は多い。広告料金も高めに設定している。

 金持ちに営業をかけたり、広告をとってきたりするのもおれたちの仕事だ。
 証拠が残るとまずいので、営業は対面でやる。メールも電話もFAXも使わない。うちの会社はアナログだ。


 仕事がおもしろいかと訊かれると、首を振らざるをえない。
 ゲームやクイズを考案する部署はおもしろそうだが、彼らは彼らで遅くまで残っていてたいへんそうだ。やりがいはあるだろうが激務だ。

 その代わりというべきか、営業部のほうはほとんど残業がない。きちんと有給休暇もとれる。労働問題でトラブルになって目を付けられたくないから、そのへんは他の会社よりもきっちりしている。
 企画・進行の部署も繁忙期こそ毎日残業しているが、それ以外はまとまった休みをとっている。給料も高いらしいし、なんだかんだいいながらみんな辞めずに続けている。

 おもしろいかと言われると答えはノーだが、辞めるほど嫌かというとそんなこともない。みんなだいたいそんなもんだろう。

 聞くところによると、薄給・激務・劣悪な職場環境で働かせるブラック企業もあるそうだ。さっさと辞めればいいのに。
 身体を壊すまで辞められない、そんなデス・ゲームに好き好んで参加するやつの気が知れない。


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