ハーモニー
伊藤 計劃
『虐殺器官』がめっぽうおもしろかったので読んでみた。
……これはあれだな。ぼくが読み方をまちがえたな。
寝る前に布団の中で毎日ちょっとずつ読んでたんだけど、そうやって読む小説じゃなかった。まとまった時間をつくって一気に読まなきゃいけないやつだった。
『ハーモニー』はかなり難解な小説だった。
『虐殺器官』のほうは、ただ単純に暗殺集団に属す主人公の描写がおもしろくて、わくわくするストーリー展開を追ってるうちに壮大なSF的仕掛けが浮かびあがってくるという小説だった。
だが『ハーモニー』のほうは、あまり動きはない。
仲間といっしょに自殺未遂をしたり、同時多発事件があったり、主人公が命を狙われたりする。これだけ書くと波瀾万丈な小説みたいな気がするが、実際はそんなことはない。概ね静かな小説だ。説明や思索や回想が物語の大半を占めている。
あとこれはいいところでもあるんだけど、直接的な説明が少ない。「今こうなってるんですよ。これが課題ですよ。だからこれをするためにここに向かってるんですよ」という説明がない。そこがおしゃれなんだけど、集中して読まないと「今この人はどこで何のためにこの人と会ってるの?」となってしまう。就寝前に読むもんじゃなかった。
『ハーモニー』は、健康を司る〝生府〟が人々の健康を管理する社会を舞台にしている。
これは明らかな『一九八四年』へのオマージュだが、恐怖ではなく健康によって支配された世の中だ。
これをディストピアと見る人もいるだろうが、ユートピアとおもう人のほうが多数派なんじゃないだろうか(二分間憎悪はやりすぎだが)。不健康になる自由よりも、誰もが健康でいる社会を望む人のほうが多いはず。
だがその世の中で同時多発自殺が起こり、さらには「殺さなければ殺される」という予告が全人類につきつけられる。
はたして予告は本当なのか、本当なら誰が何のためにおこなったものなのか、どういう手段を用いるのか、そして結果は……。
この予告がおこなわれるのが本の中盤なのだが、このへんからやっと物語が動きだす。それまではプロローグみたいなもの。プロローグなげえ。
そこからは物語も動きだすし、いろんな謎が解けていくのでやっとおもしろくなる。
安易な「主人公が世界を救う」系の結末にならないのもいい。
感心したのが、ずっとHTML構文のように書かれている文章。
〈uncomfortable〉テキスト〈/uncomfortable〉みたいな感じで。
なんだよこれじゃまくせえ、HTMLおぼえてばかりの中学生かよ、とおもって読んでいたのだが、最後の最後で謎が解けた。なるほど、そういうことね。こういう仕掛けはおもしろい。
よくできてるSF小説だなとはおもうけど、SF好きがSF好きのために書いた小説みたいだなー。そこまでSFファンでない者からすると、ちょっとついていけない。
そう、「難しいことやるからがんばってついてこいよ!」って感じなんだよね。SF予備校の上級クラスの授業。
いやこっちはそこまでの意気込みがあるわけじゃないんすよ。
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