2021年9月10日金曜日

やめるほどでもない組織

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 最近気付いたんだけど、「組織に属す」ことに関しては始めるよりやめるほうがエネルギーを必要とする。




 小学二年生のとき、サッカーチームに入っていた。
 サッカーおもしろそうとおもって入ったのだが、すぐに気づいた。ぼくはうまくない。練習してもうまくならない。元々うまいやつはどんどんうまくなるので差は開く一方。
 うまくなければおもしろくない。
 努力が大事とかいう人もいるが、そこそこ得意だから努力できるのだ。偏差値70の人が75を目指してがんばることはできても、偏差値30の人が35を目指して努力するのはむずかしい。がんばって偏差値35になったとて。

 友人に誘われて野球をやってみたらおもしろかった。毎日のように友人と野球をしていた。自主的にサッカーの練習なんてしたことがないのに野球は練習していた。

 それでもぼくはサッカーチームに所属していた。十二人しかいないチームで、後ろから二番ぐらいの実力だったけど。周囲との差は離れるばかりだったけど。サッカーより野球のほうが好きだったけど。

 脱退するのが怖かったんだとおもう。「チームに入らない」はかんたんだが、「入ったチームを抜ける」のは容易ではない。
 結局六年生になってやめたけど、元チームメイトからの「裏切者」という視線におびえていた(たぶん他のメンバーは何も気にしていなかったとおもうが)。




 中学校では陸上部に入っていた。嫌なこともあったけど、ほぼ毎回練習には参加していた。早起きして朝練もやっていた。

 走るのが好きだったわけじゃない。速かったわけでもない。長距離の選手だったが大会ではいつも後ろから数えたほうが早かった。予選を通過したことなど一度もなかった。
「全員何かしらの部活に所属しなければならない」という中学校なので入部したのだが、辞める生徒や幽霊部員の生徒もいた。陸上部の顧問も先輩も厳しくなかったので、辞めようとおもえばいつでも辞められた。
 それでも三年の夏まで辞めなかったのは「辞めるほどの理由がなかった」だけだ。

 もしぼくが「部活辞める」といえば、教師や親から「なんでや、どうしたんや」と質問攻めにされていただろう。それが面倒だった。「続けた」というより「辞めなかっただけ」というほうが正確だ。




 高校ではバドミントン部に入ったが、これは一週間ぐらいで辞めた。「なんとなく楽そう」という理由でバドミントン部に入ったのだが、顧問でもないコーチ(非常勤講師)がやたらいばって怒鳴り散らしていたので「こりゃあかんわ」とおもってすぐに辞めた。本気でバドミントンをやっている人には申し訳ないが、たかが羽根つき遊びなのに青スジ立てて怒鳴る人と同じ空間にいるのは耐えられなかった。

 辞めたら辞めたでぜんぜんなんともなかった。夏休みなんかはひまをもてあましたが、そのおかげで本をいっぱい読めた。
 高校にもなると「帰宅部のやつ」や「幽霊部員のやつ」や「ふだんあまり活動しない部活(軽音部など)のやつ」なども増えて、〝部活やってない友だち〟ができた。友だちと川で遊んだり公園で野球やサッカーをしていた。
 〝部活やってない友だち〟とは高校卒業から二十年たった今でも付き合いが続いているので、部活をやめてよかったと心からおもっている。




 大学生のとき、お好み焼き屋のバイトを数ヶ月でやめた。店主の嫁が嫌いだったから、というのが最大の理由だ。
「家の事情で急に引っ越すことになり……」と嘘をついてやめた(たぶん店主もぼくの嘘に気づいていた)。

 大学卒業して就職した会社は数ヶ月でやめた。
 体調を理由にして(体調が悪かったのは事実だが続けられないほどではなかった)。

 その次の会社をやめるときは退職者が相次いでいたのでちょっと揉めた。

 次の会社は揉めないように半年以上前から根回ししたので比較的円満にやめることができたが、それはそれで大変だった。やめる社員には容赦なく賞与を減らしてくる会社だったので、会社にばれないようにしながらそれとなく周囲に引き継ぐのはしんどかった。


 組織をやめる経験をいくつもしてわかったのは、「やめるほうが加入するより大変」ということだ。

 手続きや新たに覚えることは加入するときのほうが多い。でも新規加入時はこちらの気力も充実しているし、周囲の人たちも歓迎ムードだ。前向きな気持ちで乗り切れる。

 でもやめるときは「一日でも早くやめたい」とおもっているものだし、周囲もなんとなくよそよそしい(少なくともそう感じてしまう)。居心地は決して良くない。あたりまえだ、居心地が良ければやめたりしない。




 だから、ぼくが特に好きでもない陸上部を「やめるほどでもないから」という消極的な理由で続けたように、ただ慣性の法則で組織に所属しつづけている人はいっぱいいるとおもう。

 心の底から部活動を愛している人もいるだろうが、ほとんどの人は辞めると居場所がなくなるとおもってなんとなく続けているだけだとおもう。
 PTAとか町内会もそうだ。やめると角が立つから続けているだけ。99%の人は積極的に所属していない。
 仕事もそう。「あなたが転職しない理由はなんですか」と訊かれて即答できる会社員はそう多くないだろう。
 プロ野球球団だってヒーロー戦隊だってプリキュアだって世界征服をたくらむ悪の秘密結社だって、ぜがひでも続けていきたい意欲にあふれているのはほんの一握りで、ほとんどのメンバーは「やめるのも角が立つから」ぐらいの気持ちで続けているのかもしれない。


 案外世の中って「まあやめるほどでもないし」という気持ちのおかげでまわっているのかもしれないね。


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