2020年5月18日月曜日

【読書感想文】火の鳥と関係なさすぎる火の鳥 / 和田ラヂヲ『和田ラヂヲの火の鳥』

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和田ラヂヲの火の鳥

和田 ラヂヲ

内容(e-honより)
手塚治虫の『火の鳥』をテーマにしたギャグ漫画爆誕!和田ラヂヲの世界に火の鳥が舞い降りる!?
驚いた。
これが手塚プロダクション公式のトリビュート作品だというのだ。
いったいどんな汚い手を使ったんだ。
なにしろ手塚治虫の不朽的名作『火の鳥』とはぜんぜん関係もないのだ。

手塚治虫版『火の鳥』といえば、人類誕生から人類滅亡そして新たな文明の誕生までを扱った壮大なスケールのドラマ。原始宗教、仏教、戦争、略奪、宇宙進出、ロボットと人間の境界、クローン技術といったテーマを横軸、そして火の鳥に象徴される永遠の生命を縦軸に織りなされる人間模様を描いた漫画界の金字塔だ。
人はなぜ生きるのか、なぜ苦しまなくてはいけないのか、人間とは何なのか、なぜ争うのか、我々はどう生きるのか。そういった問いを自分自身に投げかけずにはいられない。

ところが『和田ラヂオの火の鳥』のスケールはミクロもミクロ、一冊あわせても手塚治虫『火の鳥』の1コマ分ぐらいの情報量しかない。

たとえば第1話『訪問編』。
サラリーマンが休日に新婚ほやほやの同期社員の新居を訪れるという話だ。そのときに持っている手土産の紙袋に書かれている絵が、火の鳥。
「火の鳥」要素はそれだけだ。

笑った。ぜんぜん関係ねえ。

もう一度書くが、よくこれで手塚プロダクションの許可をとれたものだ。
ぜんぜん関係ないのが逆によかったのか。
それにしても大丈夫か手塚プロダクション。ブランドマネジメントはちゃんとできてるのか。



しかしおもしろかった。
全18編が収録されているが、ほとんどすべておもしろかった。

和田ラヂヲ作品は久々に読んだが、ちっとも衰えていない。
ギャグ漫画って作者が歳を重ねるごとにパターン化したり説明過剰になったりしがちなんだけど、和田ラヂヲ氏に関してはむしろおもしろくなっている気がする。シュールすぎたのが、いい具合に現実よりになってきたのかもしれない。

中でもぼくが好きだったのは
鮨を解体する鮨屋の奮闘を描いた『修行編』
ピラミッド建設の傍ら小説執筆に励む労働者の苦悩を描いた『文明編』
再就職初日に寝坊してしまった男をスリリングなタッチで描く『再就職編』
そして一夜にして弥生時代から縄文時代に変わる時代の変遷を描いた『時代編』だ。

特に『時代編』は良かった。
縄文時代の人間がメガネをかけている、家に表札がある、公民館に集まっている、やけに民主的、次の時代の流行を知っている、とってつけたように火の鳥を出してくるなどツッコミどころしかない。


もしかすると、この情報化社会で密室で不透明な決まり方をした「令和」という元号に対する痛烈な風刺がこの漫画にこめられていたり……はしないね。

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