2020年5月8日金曜日

【読書感想文】警察は日本有数の悪の組織 / 稲葉 圭昭『恥さらし』

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恥さらし

北海道警 悪徳刑事の告白

稲葉 圭昭

内容(e-honより)
二〇〇〇年春、函館新港に運ばれてきた覚醒剤。その量百三十キロ、末端価格にして約四十億円。“密輸”を手引きしたのは北海道警察銃器対策課と函館税関であり、「銃対のエース」ともてはやされた刑事だった。腐敗した組織にあって、覚醒剤に溺れ、破滅を迎えた男が、九年の服役を経てすべてを告白する―。

いやあ、すごい。
元北海道警刑事の告白。

ヤクザと交際し、ヤクザから拳銃を入手し、拳銃や覚醒剤の密輸までおこなう。

なにより驚くのは、私利私益のためにやっていたのではなく、北海道警という組織のためにやっていたということだ。
 発砲事件が起きると、まずは暴力団関係者や現役のヤクザから情報を収集します。どの組織がどういう原因で発砲事件に及んだのか、実行したのは誰なのか、事件の全体像を把握して落としどころを探ります。それは大抵、発砲事件を起こした暴力団から使用した拳銃を押収し、被疑者一名を出頭させるというものでした。発砲した側の暴力団幹部に電話で連絡をします。
「来週、ちゃんと道具(拳銃)を用意しておいてくれ」
 こう言うと、指定した日に、逮捕される組員が一人、拳銃を携えて待っていました。ときにはヤクザのほうから私に電話してくることもありました。
「(抗争で使った拳銃は)どうしたらいいですか?」
「今回は事務所に置いとけ。今度の火曜日に行くから」
 その日に事務所に行けば、約束どおり、拳銃と逮捕される暴力団組員が事務所にいる。現行犯逮捕するだけですから、こんなに手のかからない捜査はありません。
 なぜ、ヤクザが素直に拳銃と被疑者を警察に引き渡すのか。そのカラクリはこうです。
 発砲事件が起こったにもかかわらず、使用された拳銃を押収することができなければ、警察は本腰を入れて拳銃捜査を行わざるを得ません。使用された銃を押収するため、ヤクザの関係先を片っ端から捜索していくことになる。警察を本気にさせるのは、ヤクザにとってもいいわけがありませんし、警察にとっても大変手間のかかる捜査になります。お互いが疲弊するのを避けるために、事前に落としどころを探るというわけです。拳銃を押収し、被疑者を逮捕することができれば、警察の面目は保たれますし、ヤクザにとっても組織を守ることができます。一般の人からは、警察と暴力団との癒着との批判を受けざるを得ないのが、当時の実態でした。暴力団抗争での拳銃摘発では警察、暴力団とも、互いに合理的に事を進めていたのです。
 暴力団抗争が頻発した昭和六十年(一九八五年)前後は、バブルの絶頂に向かって日本が狂乱していく時代でもありました。実業家のなかには警察庁のキャリアOBを身内に抱え、その威光とカネを使って、現役の警察官に睨みを利かせる人物も出てきました。私も、そんなバブル紳士の要請を受けて、ボディーガードとしてヤクザを紹介したことがありました。
 現役時代に暴力団対策に従事していた元警視監が、ある実業家に伴われて札幌に来ました。その実業家はすすきのに料亭やクラブを出店することを目論んでいたのですが、事業の展開に際して、ボディーガードとなる地元のヤクザを探していたのです。私は中央署の上司と一緒に、まずその元警視監に会い、その実業家を紹介されました。見るからにカネを持っていそうなその男は、私にこう言いました。
「誰か、札幌で私の身辺警護をしてくれるようなヤクザはいないか?」
「私の知り合いのヤクザを紹介します」
「よし、じゃあ、これを渡しておけ」
 バブル紳士が私に手渡した現金は一〇〇〇万円。私はヤクザにそのカネを渡して、その男のボディーガードにつけました。それだけではなく、男の経営する企業からは毎月五〇〇万円程度の用心棒代がそのヤクザに支払われました。
 ヤクザのシノギを警察官が斡旋する――。こうした行為は警察官にとってあるまじき行為です。今でも大問題になるでしょう。しかし、当時はこのようなことが、警察庁のキャリアOBが関与して行われていたのです。そればかりか、私の上司もこの実業家から一〇〇〇万円もの現金を当たり前のように受け取っていました。私はヤクザと付き合うことが仕事だと思っていましたし、ヤクザから情報を得るためには、シノギを紹介して信頼してもらうことも有効だと考えていました。カネを媒介にして、実業家と警察とヤクザが結びつく。カネが湯水のごとく溢れていたバブル経済の印象深いひとコマです。
「警察と暴力団は持ちつ持たれつ」という話はこれまでにも聞いたことがあったが、これは癒着なんてもんじゃない。もはや共犯者だ。



まだ、「真犯人を捕まえるために暴力団と一時的に手を組む」とか「十人を逮捕するために一人を見逃す」とかなら理解できる。
厳密にいえばだめだけど、きれいごとだけじゃ世の中うまくいかないからまあしょうがないよね、とおもえる。

だがこの本の中で書かれている警察と暴力団のつながりは、そんなものじゃない。
(「エス」とは暴力団の中にいて警察に通じているスパイの隠語)
 岩下は平成八年の「警察庁登録五〇号事件」の捜査に協力したエスです。このとき私は、岩下とともに暴力団員に扮して関東のヤクザから拳銃を数丁購入しました。この経験から岩下は、警察の捜査という形をとれば拳銃でも覚醒剤でも安全に手に入れられるのではないかと考えたのです。のどから手が出るほど欲しがっている拳銃を餌にすれば、道警の銃対課は話に乗ってくる。岩下はそういう絵を描いたのでしょう。平成十一年初夏、私にこう言って話を持ちかけてきました。
「拳銃を大量に密輸させるから、親父たちがパクるというのはどうだろう? その代わりといってはなんだが、シャブを入れたい。協力してくれないか?」
 岩下はこう言うと、関東のあるヤクザを私に紹介しました。そのヤクザは香港に覚醒剤密輸ルートを確立していて、いつでも覚醒剤を調達できる男でした。私はそのヤクザに会った上で、岩下の提案を聞きました。彼の話は、銃対課にとっては魅力的なものでした。
「まず香港から薬物を三回、北海道に密輸する。道警は税関に根回しして、これを見逃してほしい。四回目に拳銃を二〇〇丁密輸して、俺の知っている中国人に荷受けさせる。そこを親父たち銃対課が、ガサをかけてパクるんだ」
 二〇〇丁もの拳銃を挙げた上に、さらに中国人の身柄も付いてくる。これが実現すれば道警銃対課は、大きな実績が認められ、巨額の予算を手にすることができるでしょう。私はこの話を聞いたとき、本当にこのように大掛かりな捜査が実現できるのか、半信半疑でした。拳銃を押収するためとはいえ、大量の薬物密輸を手引きするのですから、たんなる違法行為といってもいいでしょう。私は疑念を抱きながらも、前原忠之指導官と大塚課長補佐に報告しました。そして当時の銃対課長、山崎孝次が決断したのです。
「よし、やろう」
ヤクザの側から拳銃と覚醒剤の密輸に協力してくれと警察に持ちかけ、警察は拳銃押収のノルマを達成するために話に乗る。
めちゃくちゃだ。
もはや、消防士が実績をつくるために放火するようなものだ。

この本を読むかぎり、こういう行為はわりと頻繁におこなわれていたらしい。著者は北海道警の刑事だったので北海道警のことしか書かれていないが、ノルマは全国の警察に課されているはずなのでどこも似たり寄ったりなのだろう。
警察組織というのはとんでもない犯罪組織なのだ。

もちろんこの本はひとりの刑事が書いたものなので、すべてが真実かどうかはわからない。
だが著者は自分にとって都合の悪いことも洗いざらい書いているし、また実刑を受けて刑期を終えているのでいまさら自分をよく見せるメリットも薄い。おそらくほとんどが事実なんだろう。


なにがおそろしいって、著者はすべてを暴露しているにもかかわらず北海道警は組織的な犯行だったことをまったく認めていないこと。
当然ながら誰も責任をとっていない。著者といっしょに犯罪に手を染めながらその後も北海道警で順調に出世した人もいるそうだ。

まったく認めていない、誰も責任をとっていないということは、組織の体質はたぶん変わっていないんだろう。
暴力団対策法ができたから昔ほどではなくなったんだろうけど、「犯罪を摘発するために犯罪をさせる」というやり方は今もまかりとおっているんだろう。
 警察組織のなかでは、真面目に捜査すればするほど、違法捜査に手を染めていくこともあります。そして、警察にいる限りは、まともな人間に戻ることはできません。違法捜査を犯しても、それが実績となるのなら黙認されてしまう。良心の呵責に苛まれ、上司に相談しても、誰も取り合ってはくれないでしょう。そして組織は問題が発覚してから、全力で事態を隠蔽しようと図ります。警察組織はそんなどうしようもない仕組みになっているのです。まともな人間に戻るには警察を辞めるしかない。これが私の実感です。
警察って日本有数の悪の組織なんだなあ……。
こんな極悪集団が今も闊歩しているとおもうとおそろしくなった。


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