2020年5月21日木曜日

【読書感想文】復興予算を使いこむクズ / 福場 ひとみ『国家のシロアリ』

このエントリーをはてなブックマークに追加

国家のシロアリ

復興予算流用の真相

福場 ひとみ

内容(e-honより)
なぜ復興予算が霞が関の庁舎や沖縄の道路に使われたのか―流用問題をスクープした記者が国家的犯罪の真相に迫る!小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作。

伊兼 源太郎『巨悪』という小説に復興予算流用の話が出てきて、興味を持ったので買ってみた。

2011年の東日本大震災の復興予算として5年で19兆円の国家予算が組まれ、そのうち10.5兆円が増税によってまかなわれることになった。
昨年の消費税増税は大きな話題になったが、そのときの増税はさほど大きな話題にならなかったはずだ。ぼくもニュースで見たが「まああれだけの震災、復興には途方もない金がかかるだろうから仕方ないな」とおもった記憶がある。

ところが。
復興予算はじっさいにどう使われたのか。
――目を疑った。復興に関する事業だけでまとめた予算書のはずなのに、復興と関係のない事業のオンパレードではないか。これが本当に復興予算なのだろうか。

内閣府
「金融庁職員の基本給」5205万円
「子供のための金銭の給付」(子ども手当)240万円
「共済組合負担金」1006万円うち「長期負担金」(年金)に691万円

文部科学省
「国立大学運営費交付金」(北海道大~琉球大まで)56億5484万円

法務省
「検察運営費」2527万円

外務省
「アジア大洋州地域外交」4382万円

財務省
「荒川税務署他2件の庁舎整備」5億3384万円

厚生労働省
「日本社会事業大学」(東京都清瀬市)の改修費用3億2293万

国土交通省
「小笠原諸島の振興開発事業費」6億8000万円
「北海道開発事業費」118億8150万円

防衛省
「航空機購入費」25億484万円

 ぱらぱらと一覧するだけでも、北海道や沖縄、小笠原諸島と、事業名に記載された地名は、およそ被災地からかけ離れた、無関係な地名ばかりだった。そのほかも、被災地や復興とは、見るからに関係のなさそうな事業ばかりが羅列されている。
ひどい。
めちゃくちゃだ。復興予算がわけのわからないところに使われている。
国民が「被災した人を救うためなら仕方ない」と自らも苦しいのをこらえて受けいれた増税分が、防衛省の航空機の購入費に使われているのだ。大犯罪じゃないか……というのがふつうの感覚だろう。

ところがこれが犯罪じゃないのだ。
「耐震工事」だとか「復興を世界にアピールする」などの名目さえ挙げれば、まったく検証されることもなく復興予算を使えたというのだ。信じられない。
理屈と膏薬はどこにでもつく。そんな理屈は何の意味もない。

百歩譲って、被災地の復興に使って余ったから他の用途に使わせてもらったというならまだ理解はできる。
それでも許せんけど。
だが事実はもっとひどい。
 前述の通り、復興交付金は、もともと被災した地方自治体が「従来の補助金のような細かい制限や縛りのない、自由に使える財源が欲しい」と要望して実現した予算で、初年度は3次補正で1兆5600億円が計上された。
 この復興交付金の1次配分額が公開された2012年3月2日、交付対象となる被災地ではどよめきが走った。市町村が申請した額のわずか6割程度しか、交付が認められなかったからだ。
 石巻市はこの復興交付金に防災無線整備事業を要望したが、「緊急性が乏しい」と配分から外れていた。宮城県の栗原市、大郷町、加美町などは、配分額はゼロだった。
「復興庁ではなく『査定庁』になっているのではないか」
 宮城県庁で開かれた記者会見で、村井嘉浩知事は怒りを露わにした。
 それも無理はない。宮城県では、津波浸水域の県道整備などは交付金が一切認められず、ゼロ回答だったからだ。知事は、「前に進もうとしているのに、国が後ろから袖を引っ張っている」と強い不満を表明した。
被災した自治体にはなんのかんのと理由をつけて金を渡さず、一方で国家事業であればクールジャパンだのスカイツリーだのわけのわからぬ事業にじゃぶじゃぶ復興予算を使う。

東北では仮設住宅に住んでいたり、元の生活がまったく戻らない人も大勢いる中で、復興予算が「国会議事堂の電灯をLEDに変える」なんてことに使われていたのだ。

許せない。
人でなし、という言葉が頭に浮かんだ。

この予算案を認めた人間は、法律的に問題がなければセーフ、という考えで動いたんだろうか。
でも地震で深刻な被害にあった地域の復興を後回しにして復興予算で国会議事堂の電灯をLEDに変える、なんてまともな人間なら誰だってやっちゃいけないことだとわかる。
法律に違反しているかいないかの問題じゃない。人間としてぜったいにやっちゃいけないことだ。
風上にも置けない。

でもそれが堂々とおこなわれていた。
一件二件ではない。いろんな省庁でいろんな名目で使われていた。

利権の奪いあい、省庁間の綱引き、天下り先の法人への便宜。そんなくだらない理由で、復興予算が使われた。



 被災地より国の施設が優先されたのには、霞が関の事情があった。老朽化したり、建て替え計画のあった国の行政施設は、財政難のあおりで歳出削減される傾向にあったため、改修計画があっても後回しにされていた。
 そこに現われたのが、復興特別会計だった。歳出に上限のある一般会計とは異なり、「防災」というキーワードに当てはまれば、打ち出の小槌のように予算が出るという願ってもない新しい財布が登場した。復興予算が被災地外でも使えることに喜んだ各官庁がここぞとばかりに、国の施設を最優先して復興予算に群がったのである。
 もちろん、耐震性の低い施設の改修をすることは、必要なことだ。しかし、被災地にいち早く復興予算が行き渡っているとは言えない状況で、被災地を置き去りにしたままで、被災地とは関係のない場所に多くの復興予算が投じられているのは、優先順位を間違えているとしか言えないだろう。
こんなの、詐欺の中でも相当悪質なものだ。
「投資話を持ちかけて100万円をだましとる」と「孤児のための募金として集めた100万円をふところに入れる」だったら、ほとんどの人は後者のほうがより悪質だと感じるだろう。被害額は同じでも。
人の善意につけこんで金をだましとるなんてクズ中のクズのすることだ。
復興予算の流用はそれと同じだ。いや、税金という形で強制的にとっている分、より悪質かもしれない。

そんなクズ中のクズ行為が各省庁でまかりとおっていて、しかも誰も罪をつぐなっていない。罪を罪ともおもっていない。



復興予算が他の用途に使われていることが明らかになり、大きな問題になった。

(だがはじめはメディアも見て見ぬふりをしていた。復興予算から新聞やテレビへの広告費も出ていたので、彼らも流用の利益を享受していたのだ。だから大きな声では非難できなかったのだろう)

当時下野していた自民党は、政権与党だった民主党の責任だとして強く責め立てた。あたりまえだ。
ところが。
 自民党政権が誕生して以降は、アベノミクスや国土強靭化による景気回復への期待感が注目された。一方で復興予算の流用は、民主党政権時代の負の遺産として過去のものとされ、ほとんど話題に上らなくなった。こうして、新聞・テレビ等メディアからの批判も次第にトーンダウンしていく。
 そして、奇妙なことが起きる。
 凍結されたはずの4号館の改修について、2013年度予算の一般会計「耐震対策など施設整備費」名目として、17.5億円の予算が復活したのだ。同年9月には入札も無事終わり、工事が始まった。何の議論もないままに、である。
 つまり、自民党が「国土強靭化」と題する公共事業復活を宣言するなかで、「復興予算流用」として批判された4号館の改修は、しれっと復活したわけだ。
 4号館だけではない。復興予算からの流用と批判された復興や防災を名目にした公共事業は、政権交代によって大手を振って認められるようになった。
野党のときは民主党を攻撃する材料に使った自民党は、自分たちが政権をとった途端に復興予算を流用させた。

そもそも復興予算を他の用途に使えるようにしていたのは自民・公明のはたらきかけによるものだったのだ。
 実は、政府・民主党が初めに提案していた政府案は、復興の範囲を被災地に限定していた。
 同法案は、おもに民主党政調を中心に作られていたもので、当時の民主党政調は、玄葉光一郎議員など被災地議員が中心にいたこともあってか、この時点では、あくまで被災地を前提として考えていたことが窺える。
 ところが、当時野党であった自民党がこの案の破棄を要求する。自民党が対案として提出していた法案の趣旨は、政府案の復興対策本部の設置では十分に機能しないとして、もっと迅速に強力な権限を持つ「復興再生院」の設立を求めていた。
 この法案破棄の要望を、政府はあっさりと呑んでしまう。こうして、修正案は3党合意(民主党、自民党、公明党)を経て6月20日に成立した。
 しかし、最終的にまとまった修正案を見てみると、自民党が提案していた復興再生院構想が受け入れられたわけではなかった。その代わりに自民党の要望として何が受け入れられたのかというと、それは被災地外への流用であった。
自分たちが「復興予算は他の用途にも使えるようにしろ!」と言っておきながら、他の用途に使われていることが明るみに出て世論の反発を招くと、世間と一緒になって政府・民主党を攻撃する。
そして自分たちが政権を奪還すると、しれっとまた他の用途に流用する。とんでもない悪党だ。

民主党は無能だし自民公明は邪悪。予算の中身を見ずに法案を通した他の国会議員も怠惰。

関わった人間はみんなクズだが、この件でいちばんのクズは予算を他の用途に使えるような文言をねじこんだ官僚だ。
国会議員が無能だったからうまく利用されたのだろう。



胸糞悪くなる記述ばかり。

だが、ちょっとクールダウン。
「復興予算を他の用途に使った政治家、官僚はクズだ」と高みから非難するのはかんたんだ。

けれど、自分が中央省庁にいて同じ立場にあったらどうしただろう。
「これができたら仕事がうまく進むのにな。でも予算がおりないんだよな」と常々おもっていることがある。
「復興予算ならほとんど審査なく予算がおりるよ」という話を耳にする。
さすがにそれはまずいんじゃないの、と一応はおもう。
「他の省庁でもみんなやってることだよ」と言われる。
「『クールジャパンによる日本ブランド復興経費』や『東京スカイツリー開業前プレイベント』や『途上国への援助』にも復興予算は使われたんだよ。あんたんところが申請しなかったらもっとどうでもいい事業に使われるだけだよ」と言われる。

それでも「いや、ダメなものはダメです! 人の道に外れてることですよ!」と上司に対して言えるだろうか。

……たぶん無理だ。
積極的に「申請しよう!」とまでは言わなくても、隣の人が申請しようとするのを止めることまではしない。

結局、ぼくも同類なのだ。
立場が同じなら同じようなクズ行為をはたらいた。


結局、これこそがこの問題の本質なのだ。

誰かひとり巨悪がいて「復興を口実に税金を好き勝手使ってやろうぜ!」と企んだわけではない。
「どうせ被災地にはすぐ渡らないんだし。だったらこっちの必要な事業で使おう」
「あっちの事業で使うんならこっちで使ったっていいよね」
「べつに私腹を肥やすために使うんじゃないんだし。国の事業なんだし。それで国が豊かになれば被災者にとっても利益になるし」

というちっちゃなズルの積み重ねで、何兆円もの税金が消えたのだ。

なんとも日本的な悪事ではないだろうか
官僚主導で罪の意識もないまま堂々と悪事をはたらき、ばれても誰も責任をとらない。方針を改めもしない。そのうちみんな忘れてしまう。
被災地は復興しないまま、復興予算だけがどんどん減っていく。

この件、今なお誰も責任をとっていない。
当時の与党だった民主党は下野したが、裏で糸を引いていた自民公明と官僚は今も国の中心でのさばっている。

さて今。
コロナウイルス騒動でたいへんな状況になっている。
金銭的な被害の大きさで言えば東日本大震災以上だろう。

もうちょっとしたら
「コロナで被害を受けた人たちを救うために財源が足りません!
 増税してみんなで苦しみを分かちあいましょう! 反対するやつは被害を受けた人が苦しんでもいいっていうのか! 絆!」
なんてことを言いだすやつが出てくるんじゃないだろうか。
で、そのお金がクールジャパンやら戦闘機購入やら公務員宿舎やらに使われるんじゃないだろうか。
今度こそ、ちゃんと監視しておかないといけない。
このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿