2019年7月3日水曜日
おでんというドラマ
おでんの大根が好きだ。
ぼくが五歳になる少し前、「誕生日は何がほしい?」と訊かれて「おでんの大根!」と答えたそうだ。
「あの頃のあんたがいちばんかわいかったわ……」
母はこの話をするたびに遠い目をしながらつぶやく。
それはそうと。
おでんの大根がおいしいことに異論はあるまい。
百万人に「いちばん好きな大根料理はなんですか?」と訊いたら、「おでんの大根」に七十万票ぐらい入るだろう(くだらない質問のくせに母数多すぎない?)。
ちなみに二位はぶり大根だ。たぶん。
ここからわかるのは、みんな、大根そのものの味はべつに好きじゃないってことだ。
おでんの大根の味は大根本来の味じゃない。他の具材から染み出したダシを吸収しているだけ。いってみればスポンジ役。
ぶり大根も同じ。
豚の角煮に入ってる大根も同じ。
大根は他の食べ物の味を吸収させたときにいちばん輝く。名バイプレイヤーだ。
同じくおでんの定番を張っているこんにゃくとは対照的だ。
こんにゃくはあくまで自分が主役。
決して周囲に染まらない。
一時間煮こんだおでんも、半日煮こんだおでんも、こんにゃくの味はほとんどいっしょ。見た目もいっしょ。歯ごたえもいっしょ。決して変わろうとしない。
きんぴらに入っているときと、こんにゃく自体の味は変わらない。
これはあれだ。キムタクだ。
キムタクはどんなドラマに出ていてもキムタクをやっている。バラエティ番組でも映画でもキムタクをやっている。作品の舞台や共演者が変わってもキムタクは変わらない。
こんにゃくも同じだ。どこまでもいってもキムタクはキムタク。こんにゃくはこんにゃく。
よくテレビや雑誌で「おでんの人気の具ランキング」なんてやっているが、一位は必ず大根だ。
二位はたまご。ここまでは不動。
あとは調査対象によってはんぺんだったりちくわだったり牛すじだったりするが、上位のふたりは変わらない。
おでんの主役は大根。こんにゃくは脇役。
名脇役である大根が主役で、蛾の強い大女優キャラのこんにゃくが脇を張っているのだから、おでんはなかなか味のあるドラマだ。おでんだけに。
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