2019年4月17日水曜日

【読書感想文】ルール違反すれすれのトリック / 柳 広司『キング&クイーン』

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キング&クイーン

柳 広司

内容(e-honより)
「巨大な敵に狙われている」。元警視庁SPの冬木安奈は、チェスの世界王者アンディ・ウォーカーの護衛依頼を受けた。謎めいた任務に就いた安奈を次々と奇妙な「事故」が襲う。アンディを狙うのは一体誰なのか。盤上さながらのスリリングな攻防戦―そして真の敵が姿を現した瞬間、見えていたはずのものが全て裏返る。

(少しネタバレ含みます)

警察を辞めた元SPが来日中のチェス世界王者アンディ・ウォーカーの警護を依頼される。
どうやらチェスの世界王者は本国アメリカ大統領府と日本のヤクザから、それぞれ別々に追われているらしい。いったい裏には誰のどんな思惑が……?

というハードボイルドな感じで話が進んでいき、同時にチェスの天才アンディの生い立ちも語られる。
そして明かされる意外な真相……。

まあ意外といえば意外なんだけど、「おもってたよりスケールのちっちゃな話だった」という点で意外だった。
大統領から追われているというからどんな壮大な裏があるのかとおもいきや。

叙述トリックもしかけてあって、これも軽め。
内容紹介文には「真の敵が姿を現した瞬間、見えていたはずのものが全て裏返る」とあるけど、ぜんぜんそんなことない。
「あーそうか」ぐらいのもの。

しかし「同名の別人」って、トリックとしてはルール違反すれすれじゃないか?
それで「やーい騙されてやんのー」っていわれてもねえ。
同じ名前が出てきたらそりゃあ読者は同一人物として読むでしょ。そこをいちいち疑ってたら小説が成立しない。
「あれ? 同じ人物のはずなのに前の記述と矛盾してない?」と思わせるような伏線をしっかり張ってくれていたらいいんだけど。



トリックや種明かしはともかく、ハードボイルド小説としてはおもしろかった。

舞台がめまぐるしく変わるのに今誰が何をやっているのかがすごくわかりやすい。
説明くさくない文章で、状況をさりげなく示してくれる。

すごくうまい小説だ。修辞的な文章が並んでいるわけではないが、読みやすい。こういう文章、好きだなあ。

文章がいいから、あっと驚くトリックや意外な真相がなくてもしっかりと楽しめた。
スリリングなチェスの対局を見ているような読書体験だった。チェスの対局見たことないけど。


あとこの小説を読むとチェスをしたくなるね。

小川洋子氏の『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んだときもおもったけど。

でもチェスってやりたくなるけど、やってみると「将棋のほうがおもしろいな」っておもっちゃうんだよなあ。
将棋を先に知っちゃったからかなあ。


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