2019年4月5日金曜日

まるぶた

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ぼくは、娘の保育園で「まるぶた」と呼ばれている。


娘の友だちが家に遊びにきたとき、まんまるしたぶたの絵を描いてあげたらその子がふざけて「これおっちゃんにそっくり!」と言いだし、それ以来ぼくを「まるぶた」と呼ぶようになった。

で、その子がぼくのことを「まるぶたー!」を呼ぶものだから、あっという間に保育園じゅうに広まって、今では娘のクラスのほとんどがぼくのことを「まるぶた」と呼ぶ。

わが娘は家では「おとうさん」だが、保育園では他の子といっしょになって「まるぶた」と呼ぶ。

はじめはぼくが「まるぶたちゃうわ!」と言いかえしていたので、子どもたちも囃したてるように「まるぶた! まるぶた!」と呼んでいた。
だが最近ではその呼び名になじみすぎて「まるぶた、いっしょに遊んでー」とか「ねえねえまるぶた、そのボール貸してー」とか、きわめてニュートラルに「まるぶた」と呼んでくる。

ぼくもすっかりその呼称に慣れた。



だが、まるぶた呼称にひとつの問題が持ちあがった。
保育園の先生だ。

子どもたちがぼくのことを「まるぶたー!」と呼ぶたびに、先生が注意するのだ。
「他の子のおとうさんのことをそんなふうに呼んだらだめでしょ」
とか
「自分がぶたって言われたらどんな気持ちになる? 自分が言われていやなことは人に言ったらだめでしょ」
とか。

それも、ぼくに気を遣ってか、わざわざ小さい声でぼくに聞こえないように叱っている(聞こえてるんだけど)。

ううむ。
ぼくのせいで子どもが叱られているのは心が痛む。

しかも、囃したてるように「まるぶたー!」という子は要領がいいので先生の前では口にせず、他の子の真似をして「よくわかんないけど他の子が言ってるから言ってみよう」ぐらいの感じで言ってるおとなしい子が叱られている。かわいそうだ。

正直に言って、ぼくは「まるぶた」と呼ばれることはちっともイヤじゃない。むしろうれしい。
まず前提として、ぼくはぜんぜん丸くもないし太ってもいない。むしろやせ型だ。

だから「まるぶた」と言われてもぜんぜん刺さらない。
自分のコンプレックスを直撃する「痔持ち音痴」とか言われたら不愉快だが、「まるぶた」は少しもイヤじゃない。
「まるぶた」にはちょっと親しみも感じられるし。「ぶた野郎」だったらイヤだけど。

それに、他の保護者が「〇〇ちゃんのおかあさん」「〇〇くんのおとうさん」と呼ばれる中、ぼくだけ「まるぶた」という固有の名前で呼ばれることはちょっと誇らしくもある。
子どもたちから「〇〇ちゃんのおとうさん」ではなくひとりの人間として認知してもらっているのだ、と思えるから。



だからぼくとしては「まるぶたと呼んでもらってぜんぜんいいですよ」と言いたいところだ。
でも、そうすると先生が困るだろうな。

ぼくが「まるぶたと呼んでもいいよ」と言ってしまうと、子どもが他の子を「ぶた」と呼んだときに注意しにくくなる。

「他の子のことをぶたって言ったらダメでしょ!」「だってあのおっちゃんはいいよって言ってたもん」
となってしまう。

「あの人はちょっとアレな人だからいいけど、ふつうはダメ」なんて説明しても園児たちに理解してもらえないだろう。
「誰に対しても言っちゃダメ!」とするほうがずっとかんたんだ。

だからぼくとしては、子どもたちが先生の前ではぼくのことを「おっちゃん」と呼び、先生の目がないところでは「まるぶた」と呼んでくれるのが理想だ。

ただ最近、他の子のおかあさんからも「まるぶたさん」と呼ばれていたり「ほらまるぶたのおっちゃんに遊んでもらいや」などと言われていることを知り、さすがにそれはちょっと複雑な心境だ。
ちょっと心外でもあり、恥ずかしくもあり、豚と罵られることにぞくぞくとした昂奮をおぼえたり……。

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