「至急応援願います!」
「まずは状況を報告せよ」
「寺町交差点にケルベロスが現れました!」
「ケルベロス……? なんだそれは」
「神話に出てくる生物であります!」
「なんだと! あれか、上半身が人で下半身が馬の……」
「お言葉ですが、それはケンタウロスであります! ケルベロスは頭が三つの犬であります!」
「なるほど。キングギドラみたいなやつか……」
「キングギドラ……。それはなんでありますか!?」
「ほら、ゴジラ映画に出てくるやつだよ。有名だろ」
「お言葉ですが、自分はゴジラ世代でないであります!」
「いやおれだって世代じゃないけどそれぐらい知ってるだろふつう……」
「勉強しておきます!」
「まあいいや、で、キングギドラがどうしたって?」
「キングギドラではなくケルベロスであります!」
「ああそうか、ケルベロスだったな。何頭いる?」
「三頭であります!」
「三頭もか。三頭とも寺町交差点にいるのか?」
「お言葉ですが隊長、ケルベロスの頭はつながっております。ですから当然ながら三頭とも同じ場所にいます」
「待て待て待て。なに? 三頭って頭の数の話か?」
「そうであります!」
「つまり身体は一つ?」
「そうであります!」
「だったらおまえ、三頭ってのはおかしいだろ。それは一頭だろ」
「お言葉ですが、自分は頭基準で数えるべきだとおもいます! なぜなら一頭二頭の"頭"は"あたま"という字だからです!」
「そうだけどさ。じゃあおまえ寿司はどう数えるの? 寿司一貫っていったら何個のこと?」
「一個であります!」
「えーまじで? 一貫イコール二個でしょ」
「一個であります!」
「ほんとに? おれは二個だとおもってたけど」
「自分、回転寿司でバイトしてたんですが、そのへんの解釈は人によってちがったであります! だから自分がいた店では"一個"や"一皿"と呼んで、"一貫"は使わないようにしていたであります! そもそも寿司を"一貫、二貫"と数えるようになったのは1990年頃の話で、それまでは"一個、二個"でありました!」
「おまえくわしいな。寿司の例えはまずかったな。でもケンタウロスの場合は……」
「お言葉ですがケンタウロスではなくケルベロスであります!」
「そうか。ケルベロスの場合は胴体基準で数えるもんじゃない? 頭三つでひとつの個体でしょ? たとえばさ、ヤツメウナギっているじゃん。あれ眼が八つあるからって四匹っていわないでしょ」
「ヤツメウナギはエラが眼のように見えるからヤツメウナギと呼ばれていますが、実際の眼は二つであります!」
「えっ、そうなの。知らなかった。おまえウナギのことやたらと知ってんな」
「ヤツメウナギは生物学上はウナギではないであります!」
「へーそうなんだ、知らなかった……」
「では頭の数基準で三頭ということでよろしいでしょうか!」
「いや待て待て。まだ納得いってないぞ。……じゃああれはどうだ、鳥。鳥は一羽二羽って数えるだろ。でも羽根一枚につき一羽じゃないよな。つまり羽根が一枚でもあれば一羽」
「……」
「な? だから頭がいくつあっても胴体がひとつなら一頭なんだよ」
「お言葉ですが隊長、ではウサギはどうなるのでしょう?」
「ウサギ?」
「羽根が一枚でもあれば一羽とおっしゃいましたが、ウサギには羽根がありません。ですが一羽二羽と数えます。この点についてはどうお考えでしょう!」
「いやおまえ、ウサギ持ってくるのはずるいだろ……。あれは例外中の例外というか……」
「もしも胴体がふつうのウサギで頭が三つあるケルベロウサギが現れたら、どう数えたらよいのでしょうか! 一頭か、三頭か、一羽か、三羽か……」
「それ今決めなきゃだめ? 一体なんの話してんだよ……」
「あっ、隊長、それです!」
「それ?」
「一体、ですよ。一頭二頭と数えるからややこしいのであります。一体、二体と数えれば解決であります。ケルベロスが一体現れました!」
「あーよかった」
「お言葉ですが隊長、解決した気になるのはまだ早いであります!」
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