『ダブル・ジョーカー』
柳 広司
『ジョーカー・ゲーム』に続く"D機関"シリーズ2作目。
シリーズものの小説ってたいてい「だんだん質が落ちてくる」か「同じようなパターンで飽きてくる」のどっちかなんだよね。
夢枕獏『陰陽師』シリーズなんか、はじめはおもしろかったけど毎度毎度同じパターンだったのでげんなりした。
ところがこの"D機関"シリーズは、どの短篇も高いレベルで安定しているし、さらにすべてが個性的で飽きさせない。
10篇ほど読んだが、「またこのパターンか」と思う作品はひとつとしてなかった。
安定感はともすれば退屈につながりがちなのに、安定と変化の両方を維持できているのはすごいよね。
飽きさせない工夫のひとつは、作品ごとに登場人物が変わること。
"魔王"こと結城中佐以外は、全員が非凡な能力を持ちながらまったくの無個性(であろうとしている)。スパイは目立っちゃいけないからね。
個性がないから飽きない。スパイとして生きるために名前も経歴もころころ変わるから、シリーズものでありながらまったくべつの小説になる。
視点や舞台が作品ごとに異なるのも楽しい。
『ダブル・ジョーカー』に収録された作品の主人公はそれぞれ、
- 日本陸軍内に設置された諜報組織のボス
- 中国でソ連のスパイをつとめる陸軍軍医
- フランス領インドシナに勤務する無線通信士
- かつて日本人に逃げられた逃げられた経験を持つナチスドイツのスパイ組織幹部
- 開戦前夜のアメリカに潜入している一流スパイ
D機関に対する立場も違うし、目的も違う。
はじめは誰が"D機関"のスパイかわからないから、誰がスパイなのか? と推理するミステリの味わいも楽しめる。
ほんと、スパイ養成機関という装置がうまく機能している。
柳広司はいい発明をしたよなあ。
ほどよい含蓄があり、スリルと驚きがあり、最後は鮮やかな着地が決まる。
エンタテインメント小説として完璧といっていいぐらいの作品集だよね。
一言でいうなら……「品がいい小説」。
全方位的に完成度が高くて逆になんか物足りないと少しだけ感じてしまう……のは欲張りすぎかな。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿