『ジョーカー・ゲーム』
柳 広司
陸軍に創設されたスパイ養成機関”D機関”で養成された天才スパイたちの活躍を描いたミステリー。
スパイものの小説ってよく考えたら読んだことがないな。漫画では 佐々木 倫子『ペパミント・スパイ』 ぐらい。完全にコメディだけど。
海外には007シリーズとか『寒い国から帰ってきたスパイ』とか有名なものがあるけど、日本を舞台にしたスパイの物語ってほとんど聞かないなー。
んー……。考えてみたけど、手塚治虫『奇子』ぐらいしか思い浮かばなかった。
日本にもスパイはいたんだろうけど、物語の主人公にならなかった理由は、諜報活動が卑怯なもの、武士道に反するものとして扱われていたことがあるんだろうけどな。
スパイってその特質上、活動が公になることはないしね。
しかし日本にもスパイがいなかったわけではない。
陸軍中野学校という、諜報や防諜に関する訓練を目的にした機関があった。こないだ読んだ NHKスペシャル取材班 『僕は少年ゲリラ兵だった』 にもその名が出てきた。戦況の悪化により諜報どころではなくなり戦争末期はゲリラ戦を指揮するのがメインの活動となっていたらしいけど。
東京帝國大学(今の東大)出身者らが多く、他の陸軍とは一線を機関だったという陸軍中野学校。
『ジョーカー・ゲーム』の ”D機関” は陸軍中野学校をモデルにしているらしいが、もっとマンガ的。
D機関の生徒は、天才的な頭脳と冷静沈着な思考を持つ。数ヵ国語を操り、スリ顔負けの手先の器用さ、変装術、強靭な体力を有している。どんな文書でも一瞬見ただけで一字一句正確に記憶できる。鳥かよ(鳥は頭悪いけど記憶は正確)。
当然「ありえねーだろ」と思うんだけど、精緻な構成と第二次世界大戦時の諜報活動という非現実的な舞台のおかげで意外とすんなり入りこめる。
スパイの追求するとことん合理的な思考と、日本陸軍の根性主義の対比がおもしろい。
スパイ小説って誰が味方かわからない緊張感もあるし複雑な心理模様も描かれるし、読んでいてたのしいね。
柳広司はいい金脈を見つけたね。
良質な短篇集なんだけど、後半になるにつれてパワーダウンしていくのが残念。スパイじゃなくてええやんって短篇も混ざってる。
最後の『XX(ダブル・クロス)』なんか密室殺人を題材にした推理小説だからね。しかもトリックは平凡だし。
1作目の『ジョーカー・ゲーム』のインパクトが強烈すぎたってのもあるのかもしれないけど、尻すぼみの印象はぬぐえない。
とはいえ ”超人的能力を持ったスパイ集団” という設定は「こんなおもしろいジャンルがまだ手つかずで残っていたのか」と思うほどに魅力的だ。
今作以降も『ダブル・ジョーカー』『パラダイス・ロスト』『ラスト・ワルツ』とシリーズ化されている人気シリーズなので、また続きを読んでみる予定。
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