雀蜂
貴志 祐介
「驚愕のラスト」という謳い文句の小説はまずつまらないという法則があるが、『雀蜂』もご多分に漏れずがっかりさせられる出来だった。
貴志祐介作品って当たり外れが大きいなあ。
スズメバチとの戦い、しかも過去に刺されたためこれ以上刺されたらアナフィラキシーショックで死ぬかもしれないという設定自体はスリリングで悪くない。
狂犬病のセントバーナードと戦うスティーブン・キング『クージョ』を思いだした。『クージョ』はシンプルな設定なのに長篇で読むに耐えうる出来だった。さすがはキング。
一方の『雀蜂』はというと……。
舞台は冬の雪山。主人公が目覚めると、家の中には大量のスズメバチ。どうやら妻が浮気相手と共謀して自分を殺すためにスズメバチを仕掛けたらしい。という話。
まず、主人公が命を賭けて戦う理由が理解できない。
『クージョ』の場合は、
「屋外の車の中に閉じこめられた」
「外に出ると狂犬病のセントバーナードが襲いかかってくる」
「このままだと車内の温度がぐんぐん上がって子どもの命が危ない」
という設定があるので、命賭けでセントバーナードと戦うことに説得力がある。
『雀蜂』のほうは
「家の中にスズメバチがいるが、全部の部屋にいるわけではない」
「電気は通じているし数日食いつなぐ食糧も十分にある」
「数日待てば人が来る」
「殺虫剤などハチと戦う武器も多少ある」
「雪山なので窓を開ければハチは活動できなくなる」
という条件なので、戦う必要がまったくない。
せめて、なぜ舞台を夏にしなかったのかと言いたい。殺人ではなく事故死に見せかけるとしても夏のほうが自然だろう。
根幹となる「命を賭けて戦わなければならない理由」に説得力がないので、どれだけ主人公が一生懸命戦っても「この人なにばかなことやってんの」としか思えない。
本人は必死でも、読んでいる側としては「キャー、ゴキブリ!」と騒いでるのと大差ないように思えちゃうんだよなあ。
「ラスト25ページのどんでん返し」については、むりやりオチをつけたという感じで、まあひどいものだった。(一応理由付けがあるとはいえ)語り手が読者に対して嘘をつくというのは小説のルール的には反則だし。
さらに「ラスト25ページ」のくだりでは、オオスズメバチが飛びまわってる中で平然とおしゃべりしてたり、のどに穴が空いて大量出血してる人を警察がほったらかしにしてたり、ツッコミどころしかない。
スズメバチの知識が得られること以外にはおもしろみは感じられなかったなあ……。
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