2019年2月28日木曜日

【読書感想文】宇宙時代なのにテープで録音 / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』

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たったひとつの冴えたやりかた

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア (著)
浅倉 久志 (訳)

内容(e-honより)
やった!これでようやく宇宙に行ける!16歳の誕生日に両親からプレゼントされた小型スペースクーペを改造し、連邦基地のチェックもすり抜けて、そばかす娘コーティーはあこがれの星空へ飛びたった。だが冷凍睡眠から覚めた彼女を、意外な驚きが待っていた。頭の中に、イーアというエイリアンが住みついてしまったのだ!ふたりは意気投合して〈失われた植民地〉探険にのりだすが、この脳寄生体には恐ろしい秘密があった…。元気少女の愛と勇気と友情をえがいて読者をさわやかな感動にいざなう表題作ほか、星のきらめく大宇宙にくり広げられる壮大なドラマ全3篇を結集!

ほんとにしゃれたタイトルだね(原題は『The Only Neat Thing to Do』)。翻訳SFってかっちょいいタイトル多いよねえ。
『夏への扉』『世界の中心で愛を叫んだけもの』『星を継ぐもの』『あなたの人生の物語』とか。
その流れを受けているんだろう、星新一のショートショート集もしゃれたタイトルがついていた。『だれかさんの悪夢』『ちぐはぐな部品』『おのぞみの結末』『ありふれた手法』とか。スマートだよなあ。



『たったひとつの冴えたやりかた』

両親に内緒で宇宙探検に出かけた少女。だが、あることをきっかけに脳内にエイリアンに寄生されてしまう。とはいえそのエイリアンはとっても紳士的・友好的で、害をなすどころか体内の掃除までしてくれる。すっかり友だちになった少女とエイリアンだが思わぬ罠が……。

少年冒険小説のような明るい導入から、意外性のある展開、徐々に迫る不気味な予感、そしてさわやかな悲哀が漂うラスト……とめまぐるしくテイストが変わる小説。
うん、おもしろい。
ところどころに挟まれる「たったひとつの冴えたやりかた」という台詞が、最後の最後で重い意味を持つ。




『グッドナイト、スイートハーツ』

凶悪な敵に襲われた宇宙船を助けに向かった男。そこで出会ったのは、数十年前に別れた恋人(冷凍睡眠や美容手術のおかげで互いに老けていない)、さらに賊の人質になっていたのはかつての恋人のクローンだった……。

うーん……。
「宇宙が舞台なのにめちゃくちゃ世間せまいな!」という感想しか出てこない。
宇宙の果てで数十年前の知り合いとばったり。さらに知り合いが数十年前につくったクローンともばったり。
正月に田舎町に帰省したときぐらいの頻度で知り合いに出会うスペース・オペラ。



『衝突』

異星人とのコンタクトを、「万能翻訳機」みたいなものに頼らずに、基礎的な言語だけでおこなうもどかしさを描いていたのはおもしろかった。テッド・チャン『あなたの人生の物語』を思いだした。あちらのほうがずっと説得力があったが。



三篇すべてに言えることなんだけど、え? それだけ? という感じで終わってしまう。もうひと展開あるだろうな、と思って読んでいたら何もなし。

三十年以上前の小説だからしょうがないんだけど。
少年少女向けかも。まっすぐに前を向けなくなったおっさんにはちょっと単調すぎたよ。


小説の味わいとはあんまり関係ないけど、宇宙を縦横無尽に飛びまわる世の中が舞台なのに、録音をするときにテープを使っているのがおもしろい。長時間の録音をするときはテープ入れ替えたりしてんの。はっはっは。ダセぇ。
宇宙飛行とか冷凍睡眠とかエイリアンとのコンタクトとかに関しては自由自在に想像して書いているのに、録音はテープ。カセットテープしかなかった時代には、音をデータのまま保存しておくというのは想像できなかったんだろうなあ。

人間の想像力には制限がないようで、やっぱり制限がかかってしまうということがわかるおもしろい事例でした。

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