2016年8月13日土曜日

【読書感想文】貴志 祐介 『新世界より』

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内容(「BOOK」データベースより)
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた…隠された先史文明の一端を知るまでは。

いやあ、とんでもなくスケールの大きい小説でした。
これだけの話をたった一人の人間が書いたということに驚かされる。
これを実写映画化しようとしたら、『スター・ウォーズ』7部作ぐらいの予算と上映時間が必要になるだろうね。

緻密に考えられた世界観、魅力的な新生物、次から次にピンチに陥る怒濤の展開、そして巧みに仕掛けられた伏線。
どれをとっても一級品。

単行本で前後編あわせて1,000ページを超えるボリュームでありながら、ページをめくる手が止まらなくなり、一気に読んでしまった。
小説の世界にどっぷり浸かりたいときにおすすめ。

でも逆にいうと、どっぷり浸かりながら読まないと、ついていけなくなっておもしろみを感じられないかもしれない。
登場人物は特に多いわけじゃないけど、1,000年後の日本、超能力者が支配する世界を描いたSFなので新しい概念が次々に登場する。
呪力、攻撃抑制、愧死機構、悪鬼、業魔など。
これらの概念はちょっとややこしい上に少しずつしか明らかにならないので、前半は少しもどかしい。

その分、徐々に世界の謎が明らかになっていく瞬間には、カタルシスを感じる。
未知の分野を勉強するときって、はじめはぜんぜん理解できなくって苦痛なんだけど、ある瞬間から急に全体像が見渡せるようになって爽快感を味わえるじゃない。ちょうどあんな感じ。
「そうか、世界はこうなってたのか!」

勉強が嫌いな人ってこの悦びを知らない人が多いから、勉強嫌いな人にはこの小説はしんどいかもね。


あとホラー出身の作家だけあって恐ろしいストーリー展開やグロテスクな描写も多い。後味もすごく悪い。
ぼくは後味の悪い小説が好きなのでおもしろかったけどね。
特にラストの薄気味悪さは後を引いたな。バケネズミが実は×××だったというのは、まったく想像もしなかったし、言われてみればなるほど!という感じで、見事に騙された。
読み終わってから寝たら見事に悪夢を見たからね。それぐらいイヤなラスト。
SFとしてもミステリとしてもサスペンスとしてもホラーとしてもよくできた小説だ。


ストーリーの本筋についてはネタバレにならないように書くのは難しいのでこれ以上触れないとして、
『新世界より』の魅力のひとつは、架空の動物たちの存在。
珍奇な生物たち(バケネズミ、ミノシロモドキ、トラバサミ、不浄猫、フクロウシ......)のどれも魅力的なのですが、ぼくが特に感心したのはカヤノスヅクリというヘビ。

 カヤノスヅクリの戦略は、托卵を行う鳥の習性を巧みに利用するものだった。
 托卵というのは、自ら巣を作って雛を育てる手間を省き、ほかの種類の鳥の巣に自分の卵を産み付け、育てさせることである。托卵された卵はすばやく孵化して、元からあった卵をすべて巣の外に放り出してしまう。生きるためとはいえ、あまりにも冷酷な仕打ちだと思う。アフリカ大陸に棲息する蜜教(ミツオシエ)にいたっては、嘴に付いた棘によって、宿主の雛を刺し殺すようなことまでするらしい。
(中略)
 カヤノスヅクリは、鳥の巣を模倣したものを造り、大きさから模様まで本物の卵とそっくりな偽卵を並べておいて、騙されて托卵する鳥を待つ。あとは、定期的に自分の作った巣を巡回すれば、新鮮な卵の貢ぎ物が見つかるというわけだ。

さらに、卵を食べにくる他のヘビを殺すため、毒や鋭い突起を仕込んだ偽卵を仕込むこともあるというしたたかさ。
あまりにも合理的な生存戦略なので、本当にいるのではないかと検索してしまったほど(だって自然界の生き物ってほんとに合理的なんだもの)。

いやほんと、1,000年後はないにしても、数万年後にはこんな生物も誕生してるんじゃないかな。検証しようがないけど。
願わくば、バケネズミだけは誕生していませんように......。



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