2019年2月21日木曜日

【読書感想文】米軍は獅子身中の虫 / 矢部 宏治『知ってはいけない』

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知ってはいけない

矢部 宏治

内容(e-honより)
この国を動かす「本当のルール」とは?なぜ、日本は米国の意向を「拒否」できないのか?官邸とエリート官僚が国民に知られたくない、最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」とは?3分でわかる日本の深層!私たちの未来を危うくする「9つの掟」の正体。4コママンガでもわかりやすく解説。
『知ってはいけない』とはずいぶん陰謀論めいたタイトルだ。そして書かれている内容も陰謀論っぽい。

・米軍は日本の好きなところに基地をつくることができる
・在留米兵にとっては、日本全土が治外法権。米兵が日本でおこなった犯罪を日本の警察や裁判所は裁くことができない
・米軍が必要と判断したら、日本の軍(つまり自衛隊だね)は米軍の指揮の下で戦わなくてはならない

これが陰謀論ならいいんだけどね。
しかし孫崎享『戦後史の正体』など他の本の記述と照らしあわせると、この本に書かれていることはたいていが真実なんだろう。日本人としては残念ながら。
実際、戦後日本の動きを見ているかぎり、否定しようがないし。

『知ってはいけない』では、戦後(占領下にあった時期を戦後と呼んでいいのであれば)に日米間(というより日本政府と米軍間)でとりかわされた条約や密約をもとに、こうした事実を明らかにしていく。
 ところが日本だけは、米軍ヘリやオスプレイの墜落事故のケースを見てもわかるように、敗戦後七〇年以上たってもなお、事実上、国土全体が米軍に対して治外法権下にあるのです。
「何度もバカなことをいうな」
 と言われるかもしれません。
 しかしこれもまた、確かな根拠のある事実です。このあとご紹介する日米合同委員会という秘密会議で、左のような密約が日米間で合意されているからです。

「日本国の当局は、所在地のいかんを問わず米軍の財産について、捜索、差し押さえ、または検証をおこなう権利を行使しない」
(日米合同委員会の公式議事録 部分 一九五三年九月二九日)
 つまり、この会談でクラークは、
「戦争になったら日本の軍隊(当時は警察予備隊)は米軍の指揮下に入って戦うことを、はっきり了承してほしい」
 と吉田に申し入れているのです。そのことは、次の吉田の答えを見ても明らかです。

「吉田氏はすぐに、有事の際に単一の司令官は不可欠であり、現状ではその司令官は合衆国によって任命されるべきであるということに同意した。同氏は続けて、この合意は日本国民に与える政治的衝撃を考えると、当分のあいだ秘密にされるべきであるとの考えを示し、マーフィー〔駐日大使〕と私はその意見に同意した」

 戦争になったら、誰かが最高司令官になるのは当然だから、現状ではその人物が米軍司令官であることに異論はない。そういう表現で、吉田は日本の軍隊に対する米軍の指揮権を認めたわけです。こうして独立から三ヵ月後の一九五二年七月二三日、口頭での「指揮権密約」が成立することになりました。
社会の教科書では憲法、その下にある法律にもとづいて国は動くと書かれているけど、本当は、戦後日本はそうなっていない。
日米間の条約や、あるいは公式な文書ですらない "密約" が法律、さらには憲法よりも高い地位を占めていて、その方針によって戦後日本の枠組みが作られているのだ。

どうして政治家がこんなに憲法を軽視するのか疑問だったのだけれど(特に現政権は)、戦後数十年にわたって憲法を無視した密約に従って動いてきたんだもんな。そりゃないがしろにされるわ。

よく自虐的に「日本はアメリカの植民地だ」なんて言うけれど、大げさでもなんでもなく、アメリカ軍が日本で好き勝手にしていいというルールが幅を利かせているわけだから、ほんとうに植民地なのだ。
アメリカ軍は日本の好きなところに基地をつくれるのだ。基地問題は沖縄だけの話ではない。



アメリカの植民地だった国は他にもたくさんあるが、独立後も「アメリカ軍が好きなときに好きなだけ飛行機を飛ばせる」なんて条件を受け入れているのは日本と韓国だけだそうだ。

それは、朝鮮戦争が大いに関係がある。
日本が占領下にあったときに朝鮮戦争が起こったため、アメリカ軍はぜったいに日本に基地を残しておきたかった。だから「基地を置いてもよい、軍用機を飛ばしてもよい、有事の際は日本軍がアメリカ軍の指揮下に入る、という条件を呑むのであれば日本を独立させてやってもよい」という取り決めがなされ、かくして日本は実質的な植民地となることを引き換えに独立を果たした(それを独立といっていいのかわからないが)。
そして朝鮮戦争はまだ終わっていない。「休戦」しているだけだ。だからアメリカ軍による実効支配は今も続いている。

矢部宏治さんはこれを戦後レジームならぬ「朝鮮戦争レジーム」と呼んでいるが、なるほど、そういう視点で見ると日米の関係がすっきりと見えてくる。



思想の左右に関係なく、こういった歴史背景は知っておかないといけないよね。
こういうことを知らずに憲法改正なんて議論できるわけがない。
 こうした大西洋憲章の理念を三年後、具体的な条文にしたのが、国連憲章の原案である「ダンバートン・オークス提案」でした。この段階で「戦争放棄」の理念も条文化され、世界の安全保障は国連軍を中心に行い、米英ソ中という四大国以外の一般国は、基本的に独自の交戦権は持たないという、戦後世界の大原則が定められました(第8章・12章)。
 これはまさしく日本国憲法9条そのものなんですね。ですから憲法9条とは、完全に国連軍の存在を前提として書かれたものなのです。
 日本ではさまざまな議論が錯綜する憲法9条2項についても、この段階の条文を読めば、あっけなくその本来の意味がわかります。要するに、日本国憲法は国連軍の存在を前提に、自国の武力も交戦権も放棄したということです。

これすごく大事。
「日本国憲法は国連軍の存在を前提に、自国の武力も交戦権も放棄したということです」

なるほどなー。「みんなが銃の代わりに花束を持てば世界中がハッピー!」なんて能天気なもんじゃないんだなー。
ということは国連軍が誕生しなかった以上(今後もたぶん創設されないでしょう)、憲法九条を維持しつづけるのはかなり苦しいものがある。
だったら憲法改正! というのも短絡的で、今の日米関係のまま自衛隊を正規軍にしたってアメリカ軍の下部組織になるだけ。

日米安保条約を破棄して、自衛隊なんていう嘘ではなく「軍」として憲法に明記。ただし侵略戦争は明確に否定、みたいなことができたらいいんだろうなー。
すごくむずかしいけど、でもそれって他の国がみんなやってるごくごくふつうのことなんだよな。ふつうの国がやってることを日本だけができてないってのが相当異常なんだとまずは理解することから始めなければ。


歴史を見ると、米軍が日本人を守る気なんてさらさらないことがよくわかる。
中国やロシアが脅威だと言ってるけど、アメリカもそれと同じくらいの脅威だ(国家元首の理性だけを見たらアメリカがいちばん危険だと思う)。
米軍基地だらけの日本は、獅子身中の虫を飼ってるようなものだ。
「憲法九条があるから日本は大丈夫!」もかなりおめでたい思考だけど、「アメリカ軍が守ってくれるから大丈夫!」はそれ以上におめでたい。


歴史の教科書の副読本にしてほしい一冊。
これを読むと戦後日本の歩んできた道がクリアに理解できるようになる。

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