2018年11月29日木曜日

遊ぶ金欲しさ

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ぼくの通っていた高校はアルバイト禁止だった。
特段の事情がある場合は届け出て学校の許可をもらえばアルバイトをしてもよいということになっていたが、学業を優先させるべし、ということで原則禁止だった。

とはいえ、学校に内緒でこっそりバイトをしている生徒はいた。
こづかいの足しにするために、近くの飲食店やスーパーなどでバイトをするのだ。
とはいえ、田舎のことなので高校生が働ける場所はそう多くない。おまけに近所に住んでいる教師もいるので、へたな場所でやると見つかってしまう。バレたら厳重注意、その後また見つかったら停学だ。遊ぶ金欲しさのバイト、そして停学。

リスクが高いので、バイトをやっている生徒は多くなかった。そもそも塾や部活で忙しいのだ。
うちの高校では、アルバイトはちょっと不良の子がやるもの、という認識だった。


あるとき、家から少し離れたところにあるコンビニに入ったら隣のクラスのYくんがコンビニの制服を着てレジにいた。何度か言葉を交わしたことのあるやつだ。
「おう。バイトしてるんや。まじめそうに見えて、けっこう悪いなあ」
ぼくは声をかけた。
Yくんは少し恥ずかしそうに「おお、まあな」と言った。
「大丈夫、学校には内緒にしとくから」
ぼくは笑い、彼からジュースを買って店を出た。

少し後に、別の友人と話していて
「そういや前、Yくんがコンビニでバイトしてるのを見たわ。ふだんはまじめやのにちょっと意外やな」
と言うと、
「Yはちゃんと学校に許可をとってバイトしてるんやで」
と教えられた。


その言葉で事情をさとり、ぼくは己の考えの浅はかさを恥じた。
高校からアルバイトを許可されるのは、家庭に経済的な事情がある場合だけだ。
Yくんの家は、高校生のバイト収入をあてにしないといけない経済状況だったのだろう(「Yの父親は何度も選挙に出馬して落選している」という話も聞いた)。

ぼくが育った街は戦後に造成された住宅地。
小学校でも中学校でも、同級生の大半はサラリーマン家庭だった。みんな同じような広さの一戸建てに住んでいたから、経済状況も似たり寄ったりだったはずだ。
高校もそのエリアにある公立高校だったので同じような環境だった(Yくんは少し離れたところから通っていた)。

ぼくにとって「高校生の息子がバイトしないと生活に困る家」というのは想像の埒外だった。
高校生がバイト=遊ぶ金欲しさ、という間抜けな等式がぼくの中にできあがっていたのだ。


必要に駆られてバイトをしているYくんに「けっこう悪いなあ」と声をかけるなんて、申し訳ないことをした。
かといってYくんに「家計を助けるために働いててんな。そうとは知らずにごめんな」と言うのも、かえって嫌な気持ちにさせるんじゃないかと思って何も言えなかった。

今でもこころぐるしい思い出。

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