『世界の中心で愛を叫んだけもの』
ハーラン・エリスン(著)
浅倉 久志 , 伊藤 典夫(訳)
タイトルだけは有名な(というよりこれをもじったタイトルが有名なんだけど)表題作を含む、SF短篇十五篇。
まず表題作。
うむ、ぜんぜんわからない。とにかく難解。わからせようともしていない。理解を拒む文章。
めちゃくちゃじっくり読めば解釈できるかもしれないが、大学のテクストではないのでそこまでする義理はないのだ、こっちには。
作者が説明をしないのでよくわからないのだが、かといって説明をしてしまってはつまらないのでこれはこれでいいのだろう。ぼくには合わなかったけど。
これは読むのきついなあと思いながら読んだが、他の短篇はそこそこ楽しめた。
車で激走しながら殺しあうカーアクション『101号線の決闘』は、映像化したら楽しそう。
フリーウェイで追い抜かれたから、というだけの理由で命を賭けるというのがアホらしくていい。でも現実にもけっこういるよね、追い抜かされただけで命を賭けちゃう人。
ぼくもちょっと気持ちはわかる。なので車は極力運転しないようにしている。
後味の悪いラストも好き。
サンタクロースがスパイとして秘密組織と戦う『サンタ・クロース対スパイダー』も、アメコミ的な疾走感があって楽しかった。十時間分のドラマをぎゅっと一時間に凝縮したようなスピード感。どんどん敵が現れてあっという間に片づけてしまう。
なんか勢いだけで書きました、って感じのくだらなさがあっていい。
敵対する異星人を殺すために体内に爆弾をしかけられてしまった男の逃走と闘争を描いた『星ぼしへの脱出』は、心中描写はそう多くないのに絶望感、孤独感、怒りといった感情が猛烈に伝わってくる。
星新一の『処刑』を思いだした。筋は似てないんだけど。
宇宙人がやってきてショーをくりひろげるのに便乗して金儲けをする男の顛末を描いた『満員御礼』。これも星新一の世界感っぽいね。というか星新一がこっちに影響を受けたんだろうけど。
後半はどんどんおもしろくなってきた。
『殺戮すべき多くの世界』の宇宙各地で依頼人に頼まれて殺戮をくりかえす男、『少年と犬』の荒廃した世界で暴力に包まれながら懸命に生きる少年、どちらもすさまじい暴力性を抱えているのに、その陰にやりきれなさ、哀しさを感じる。
作品の毛色はいろいろ異なれど、どの短篇にも怒りや焦燥が満ちている。
初期の筒井康隆作品を思いだした。なんか常にいらだっているみたいなんだよね。
ただ筒井康隆作品にはバイオレンスの中にもブラックユーモアがあるんだけど、ハーラン・エリスン作品はただ純粋な怒りがうずまいている。発狂一歩手前、という感じ。そしてどの話も救いがない。
何をそんなに怒っているんだという気もするけど、中学生ぐらいのときってこんな心境だったなあ。いろんなことに怒りを感じてしかたがなかった。
大人になるにつれてさまざまなことをやりすごせるようになったんだけど、ハーラン・エリスン氏はその気持ちをずっと持ちつづけているようだ。
なーんか、この狂気寸前の怒りや暴力性を真正面から受け止めるには、ぼくが歳をとりすぎたのかもしれない。おっさんにはしんどかったぜ。
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