『日本沈没』
小松 左京
日本SFを代表する超大作。
筒井康隆氏によるパロディ作品『日本以外全部沈没』のほうは読んだことがあるけど、こっちは読んだことなかった。
刊行は1973年だけど、その後に起こったいろんな地震・噴火とも重なるような部分もあり、街が、そして国がめちゃくちゃに破壊されていく様は読んでいて息苦しくなるほどだった。
こういう描写がひたすら続くと、小説だとわかっていても気が重くなった。東日本大震災の直後に感じた「なにかしないと。でも何もできない」という無力感をひさしぶりに思いだした。
『シン・ゴジラ』をもっともっとスケールアップした感じ、といったらいいだろうか。
荒唐無稽なほら話なんだけど、そう思わせない圧倒的な知識が詰め込まれている。プレートテクトニクスや潜水艦構造や政治や軍事やあれやこれやがものすごく細かく、そして深く書かれている。さすが「知の巨人」と呼ばれていた小松左京氏と感心するばかり。司馬遼太郎のように「特に書かなくてもいいけどせっかく調べたから書いたれ!」という感じではなく、ストーリー展開に説得力を持たせるために必要なことだけが書かれている。
巻末の解説で小松実盛氏(小松左京氏の息子)が「小松左京は『日本沈没』を書くために当時高価だった電卓を買い、それを駆使して書いた」と説明している。
小説の中には計算式はおろか数値すらほとんど出てこないが、作者の頭の中には根拠となる数字があったのだろう。表に出てこない圧倒的な量の資料がこの重厚な物語を支えている。「日本が沈没することになったら」という発想自体はさほど斬新ではないかもしれないが、その設定でこれだけ厚みを持った小説を書ける人は他にいないだろうね。
ぼくは中学生のころ、小松左京氏の『雑学おもしろ百科』というシリーズの本を集めていた。
今でこそこの手の本はたくさんあるが、そしてその九割が他の雑学の種本からの寄せ集めだが、小松左京版『雑学おもしろ百科』はいろんな学術書から拾ってきた内容が多く、独自性が高くておもしろかった(ただし内容には誤りも多かった)。
中学生のときに小松左京氏の小説を何冊か読んでいずれもあまりおもしろいと思えなかったけど、ぼくがそれらを読むのに適した知識を持っていなかったからかもしれないな。ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』のおもしろさを理解するにはある程度の教養が必要であるように。
『日本沈没』はただ「日本が沈没する」だけの話ではない。政府はどういう決断を下すか、経営者団体はどう動くか、アメリカやソ連をはじめとする各国の勢力図はどう変わるか、そして生まれ育った国土を離れた"日本人"のアイデンティティはどうなるのか……。細部にわたり執拗すぎるほどの思考実験がおこなわれている。
リアリティはあるが、しかしこの小説で描かれている日本人はやはり「1970年代の日本人」だな、と感じる。2018年の日本に住むぼくから見たら「みんな利他的で社会を大事にしすぎじゃない?」と思えてしまう。たぶん今ならもっとみんな我先にと逃げだすと思う。
『日本沈没』は日本列島が沈むところで終わっており、「第一部・完」と記されている。国土を離れた日本人たちの苦しみを描く第二部の構想もあったらしいが、結局書かれぬまま小松左京氏は2011年に逝去してしまった。
ぜひ読みたかったな。
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