2017年12月23日土曜日

イタリアンの天才店員

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イタリアンの天才店員に出会ったことがある。
といっても、シェフではなくウェイターだ。


会社の同僚たち四人と、さびれたイタリアンレストランに行ったときのこと。
ランチ千円とちょっと高めだったが、たまには贅沢するかと足を踏み入れた。

内装はなかなかしゃれた造りで、ランチメニューは
・三種類のオードブルから一品
・三種類のピザまたは二種類のパスタから一品
・肉料理または魚料理または野菜料理から一品
・五種類のドリンクから一品
を選ぶという、ボリュームたっぷりかつ自由度の高いメニューだった。
「これで千円は安いな」と、ぼくらはメニューを見ながら言いあった。

店員を呼ぶと、やってきたのは若い兄ちゃんだった。茶髪にピアス、ちゃらそうな男だ。あまりやる気はなさそうだ。

ぼくらは口々に注文した。
「前菜はバーニャカウダ、マルゲリータのピザ、肉料理とアイスコーヒー」
「おれはね、コーンポタージュとペペロンチーノ。メインディッシュは魚料理で、飲み物はジンジャエール」
こんな感じで、五人分。

注文しながら、ぼくらは不安を感じていた。
なぜなら、店員の兄ちゃんがまったくメモをとらないのだ。
一応「はい、はい」と言いながら聞いているが、メモをとるわけでもなく、ファミレスの店員が持っているようなでかい端末を操作するでもなく、ただ突っ立っている。

兄ちゃんは注文を復唱することもなく、厨房のほうへと立ち去っていった。

「あいつ大丈夫か。まったくメモとってなかったけど」
「いやどう考えても大丈夫じゃないだろ。メニュー、めちゃくちゃややこしいぞ」
「覚えられるわけないよな。もしかしてICレコーダーでも隠し持ってたのかな」
「ぜんぜんちがう料理が運ばれてきたりして」
「まあそれはそれでおもしろいんじゃない?」
ぼくらは不安を感じながら、料理の到着を待った。

料理が運ばれてきて、驚いた。
オードブル、ピザ、パスタ、メインディッシュ、ドリンク。
すべて注文した通りに運ばれてくる。タイミングも完璧。言った通りにアイスコーヒーとジンジャエールは食前、ホットコーヒーは食後に運ばれてくる。

「あの、すみません」
思わず、料理を持ってきた店員の兄ちゃんを呼び止めてしまった。

「さっきぜんぜんメモをとってませんでしたけど、もしかして覚えてたんですか?」
「はい」
「録音してたとかじゃなくて?」
「いえ。覚えてました」
「めちゃくちゃ記憶力いいですね!」
「はあ、まあ」
相変わらず兄ちゃんはやる気なさそうだ。だが今やそのやる気のないたたずまいすら、逆に神秘的に感じる。

兄ちゃんが厨房に引っ込んだ後も、ぼくらはその話で持ちきりだった。
・三種類のオードブルから一品
・三種類のピザまたは二種類のパスタから一品
・肉料理または魚料理または野菜料理から一品
・五種類のドリンクから一品
この組み合わせ、それも五人分を覚えてしまうのだ。しかも一回聞いただけで。
世の中にはすごい人もいるもんだ。

こんな超人的な記憶力を持っているならレストランのウェイターよりもっと他の仕事についたほうがいいのに……。

と思ったけど、じゃあなんの仕事なら彼の才能を活かせるのかと考えると……。ううむ、よくわからん。
やっぱりウェイターが天職なのかもしれない。


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