友人の話だ。彼は結婚して、妻の両親と同居している。
そのお宅に招待され、共に食事をする機会があった。
食事の後、子どもたちとシールを貼って遊んでいると、友人が自分の娘に言った。「このシール、おじいちゃんのはげ頭に貼ってみ」
えっ、と声が出た。
娘のおじいちゃんって、つまり義理のお父さんだよね。そんな扱いでいいの?
友人の娘は、おもしろがっておじいちゃんにそっと近寄り、はげ頭にシールをぺたっと貼った。孫娘にいたずらをしかけられたおじいちゃんは笑いながら「こらっ」と叱り、叱られた孫娘はけたけた笑い、いたずらを指図した友人もげらげら笑っていた。
おいマジか。義父のはげをイジっていいのか。
いくら一緒に住んでいるからといって遠慮がなさすぎないか。
ぼくは義父に対してそんな扱いぜったいにできないぞ。実の父に対してでも無理だ。
ところが友人は義父のはげ頭で遊び、友人もお義父さんもいっしょになって笑っている。
なんつう距離の近さだ。感心をとおりこして恐ろしさすら感じた。
後に友人とふたりっきりになったときに「おまえ義理のお父さんに対してあんなことしていいのかよ」と訊くと、「いいのいいの、家族なんだから」と笑っていた。
いや家族でも越えちゃいけないラインがあると思うんだけど。
将来、ぼくの娘が結婚して夫を家に連れてきたとしたら。ぼくは「ぜんぜん遠慮しなくていいよ」と言うだろう。「自分の実家のようにくつろいでくれたらいいよ」と。
でも、その婿が「ぼくブロッコリー嫌いなんでお義父さんに食べてもらおっと」と言って勝手にぼくの皿にブロッコリーを乗せてきたら。自分の子どもをけしかけてぼくの頭にシールを貼らせたら……。
その場は笑って寛容なところを示す。
でもその後で娘を呼び「いくらなんでもあれはだめだろ」と間接的に注意すると思う。「たしかに遠慮するなって言ったけど、ふつうは遠慮するだろ」と。
後日、その友人と会ったとき、友人の娘が「今日はチビが来るんだよ」と言ってきた。
「チビ?」と訊くと、友人が「ああ、うちの親父のこと。背が低いからうちの家ではチビって呼んでるんだ」と教えてくれた。
おお……。義理のお父さんに対してひどい扱いをすると思ったけど、自分のお父さんへの扱いはもっとひどかった。
ということは「はげ頭にシールを貼らせる」ぐらいなら、彼にしたらぜんぜん遠慮してるほうなのかもしれないな。一応敬語は使ってるし。
世の中にはいろんな距離感の家族があるもんだ。
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