2015年9月18日金曜日

【エッセイ】ぶどうの学校

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知り合いが、ぶどうの学校に通っているという。

「ぶどうの学校……。そんなのがあるんですか」

 「そうなんですよ」

「ほんとですか」

 「ほんとにあるんですよ」

「あっ。“武道”の専門学校ですね」

 「いえ、“葡萄”のです。食べるほうの」

「ほんとですか」

 「ほんとにあるんです」

「……。あっ、わかった。ワイン作りを教えるんですね」

 「いえ、ワイン用とはべつの品種です。学校でやるのは食べる用です」

「ほんとですか」

 「ほんとですってば」

「ぶどうを育てるんですか」

 「そうです。育て方を教えてくれるんです」

「……。ああ、農業高校みたいなのですか。それの果樹コースとか」

 「そこまでじゃないです。ぶどうを育ててみるだけです。他の果樹や野菜はやってません」

「ほんとですか」

 「ほんとなんですって」

「なぜまたぶどうを」

 「生徒を募集してたんで。ぶどう嫌いじゃないですし」

「そんな理由ですか」

 「そんなもんですよ。わたし、以前ダンスを習ったこととありますけど、そのときもなんとなく楽しそうだったからっていう程度の動機でした」

「いや、ダンスはわかるんですけど。気楽にはじめてもいいと思います。でもぶどうの学校は……」

 「ぶどうも同じでしょう」

「ぶどう狩りでいいじゃないですか。わざわざ学校で習わなくても」

 「収穫だけじゃなくて栽培もしてみたかったんです。ちゃんとした先生に教わって」

「ぶどうだけをですか……。
 ああ、わかった。ご実家がぶどう農家なんでしょう! そしてあとを継ぐ予定なんですね。だからぶどう栽培について学ぼうと思った。なるほど、それなら理解できる!」

 「いえ、実家はサラリーマン家庭です。親戚にぶどうを育てている人はひとりもいません」

「だめだ……。ぼくの理解の範囲を超えている……!」

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