2022年9月30日金曜日

【読書感想文】吉田 修一『パーク・ライフ』 / クズにあこがれる心理

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パーク・ライフ

吉田 修一

内容(e-honより)
公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。

『パーク・ライフ』と『flowers』の二篇を収録。

 芥川賞受賞作である『パーク・ライフ』は、正直肌に合わなかった。なんだか村上春樹みたいだな、でも村上春樹よりももっと退屈だな、という感想。断片的には悪くないんだけど、シーンとシーンがばらばらで、有機的につながってこない。日記を読んでいるみたいだった。

 もちろん和博さん側にも言い分はある。無口な人で、日ごろはほとんどその手の話をしないのだが、あるとき一緒にラガーフェルドを駒沢公園に連れていった帰り、こんなことを言い出した。「たとえば瑞穂がリビングでテレビを観てるだろ、そうするとなんていうか気を遣うっていうのかな、いつも一緒だと息も詰まるだろうなんて思ってさ、俺は寝室で本を読むわけ。で、瑞穂が寝室に来ると、明るいと眠れないだろうと思って、今度はリビングへ。一緒にいたくないわけじゃないんだよ。一緒にいたいもんだから、部屋から部屋へ移動してるんだよな」と。

 このくだりとか好きなんだけどね。はっきり言語化するのはむずかしいけど、ああわかるなあという感じで。うちの夫婦も、子どもが寝た後はこんなんだ。仲が悪いわけじゃないよ。嫌なわけじゃないけど、ただしゃべりたくないだけ。




『flowers』は好きだった。これこれ、やっぱり吉田修一作品はこうでなくっちゃ。

 ぼくは吉田修一作品の「嫌な感じ」がたまらなく好きだ。怠惰、倦怠感、恨み、諦め、妬み、堕落、逃避、焦燥、自暴自棄……。そんな、誰もが味わいたくない、けれど味わってしまう感情をうまく書いてくれる。

『flowers』には、嫌なやつばかり出てくる。特にクズなのが元旦(こういう名前)で、会社の先輩の奥さんと浮気し、その奥さんを別の男に紹介したりもする。イチモツが大きいのが自慢で、面倒な仕事は要領よく他人に押しつける。……とまあクズ中のクズなのだが、ふしぎと主人公は元旦に悪印象を持っていない(途中までは)。しょうがないやつだとおもいながら、ほんのわずかな憧れを抱いているようにも見える。

 そうだよね。どうしようもないけど、でもなぜか憎めないやつっているよね。バカだなあとか、痛い目に遭っても知らんぞ、とかおもいながらも常識やモラルを軽やかに飛び越えて生きている姿にちょっと憧れたりする。

 己の中の「他人を傷つけて生きるダメなやつでありたい」という反道徳的な欲求に気づかせてくれる短篇だった。べつに気づきたくなかったけど。


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