「わたしは甘えているのでしょうか?」
〈27歳・OL〉
村上 龍
若い女性からの悩みに村上龍氏が答えるという人生相談。
村上龍氏に悩みを相談するってどうなんだ。いや小説家としては好きだけど。ふつうの人とはいろいろと感覚ずれてるような気がするぞ。会社勤めもしたことないし。でもそこがいいのかな。
まあどっちにしろ、会ったこともない人に人生相談をする人の気持ちはぼくにはわからんけどね。
仕事を続けていくべきか不安だ、という悩みに対する回答。
ずいぶん身もふたもない話で、「それを言っちゃあ人生相談が成立しないんじゃないの」と言いたくなるけど、こういうことを言っちゃうのが村上龍らしいというか。
まあみんなそうだよね。相談した時点で、求めている答えはすでにある。表題の「わたしは甘えているのでしょうか?」は「そんなことないですよ」と言ってほしいだけなんだろうしね。
「今の仕事を続けていていいのか」と悩むってことは、「このままじゃたぶんよくない」ことは本人もわかってるんだろう。
だったらさっさと転職活動をするなり独立するなり資格をとるなりすればいいんだけど、めんどくさいし今より悪くなる可能性もある。だから悩み相談をする。何かをやった気になるために。今より良くなるかどうかなんて自分自身でもわからないのに、会ったこともない人にわかるわけがない。
人間にとって「めんどくさい」って気持ちは相当大きなものだとおもう。ほとんどの悩みは「めんどくさい」に帰結するんじゃないだろうか。転職するのはめんどくさい、離婚するのはめんどくさそう、嫌な人に注意したらめんどくさいことになるかもしれない……。
「サラリーマンと、年下のフリーター。どちらとつき合うのが有利でしょう。親からは、本当に好きな男性と結婚しなさいと言われています。」
という悩みに対する回答。
はっはっは。痛快!
たしかになあ。コメディみたいに、二人の男が花束を抱えて「ぼくと結婚してください!」と言ってきたのならともかく、現実は単に二股かけているだけ。なぜ二股をかけるかといったら、どっちも最高の相手じゃないからだろう。
こっちが二股をかけているように、相手のほうだって本気かどうかわからない。案外、二人とも「おまえとは身体の関係なだけで結婚とかは考えられないから」みたいな気持ちかもしれないよね。
わりとドライというか、突き放すような回答が多い一方で、やっぱり村上龍もひとりのおっさんなのねえとおもう回答も。
社長の親戚でコネ入社した上司からのパワハラに悩まされているという質問に対して。
いくらなんでもこの回答はないだろう。
パワハラには耐えなさい、そのつらさを軽減できるよう自分をごまかしなさい。これでは「奴隷の処世術」だ。
こういう回答を聞いても何にもよくならないでしょう。「奴隷には奴隷の楽しさがあるからがんばってそれを探しましょう」って言われても。
現実問題として上司が変わることはないだろうし、社長のコネで入社したんなら社内で解決するのはまず無理だろうし。録音して裁判して……とかいう道もないではないけど、それをして居心地のいい職場になるとはおもえないし。そもそもそんなことできる人なら相談してないだろうし。
でも、「さっさと転職しなさい」ぐらいは言ってあげるべきじゃないのかね。「強者」である中高年男性の回答だなあ。
『カンブリア宮殿』に出ていて、「作家としてはメディアによく出るほう」の村上龍がそれを言うかというのはおいといて……。
ぼくには姉がいる。弟のぼくが言うのもなんだけど、すごく充実した人生を送ってる人なんだよね。明るくて、友だちが多くて、家庭円満で(たぶん)、仕事も大好きで、資格取ってどんどんキャリアアップしていて、地域の行事とかにも積極的に参加していて、家事も楽しんでいて、遊びにも出かけていて……とほんとにキラキラした人生を送っている人だ。ぼくとはぜんぜんちがう。
で、その姉はSNSをやっていない。いやmixiもFacebookもやっていてぼくにも友だち申請が来たけど、まあ絵に描いたような三日坊主でまったくログインしていない(その証拠にこないだFacebookのアカウントを乗っ取られてサングラスの宣伝とかしてたのに本人は気づいてなかった)。あまりパソコンやスマホを使っていないらしい。仕事の連絡とか写真を撮るとかぐらい。
何が言いたいかっていうと、ほんとに人生充実してる人ってのは、TwitterやInstagramやFacebookでたくさん発信してフォロワーいっぱいいる人じゃなくて、そもそもSNSをやっていない人なんだとおもうんだよね。人生が忙しくて楽しくてSNSをやる暇もないし、やる理由もない。「いいね」を集めなくても、仕事や家族や友だちや地域の人とのつながりで承認欲求が満たされるから。
読む前は「なんで村上龍に人生相談するんだろう」とおもったけど、読み終わった後はもっと「なんで村上龍に人生相談するんだろう」とおもった。
ほんと、冷たいんだもん。「まあそんなもんですよね」ぐらいで済ませてまともに答えてないのも多いし、答えてるやつにしても「これは質問者が望んでいた答えじゃないんだろうな」と感じるようなものも多い。
親身になっていない、それどころか親身になっているフリすらしていない。そこがある意味誠実と言えば誠実なんだけど。
ぼくだったら、仮に人生相談したくなったとしてもこの人には相談しないなあ。鴻上尚史さんのほうがいいな。
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