稲垣 栄洋
決して強者ではない生物たちが生存のためにどのような戦略をとっているかを紹介した本。
個々のエピソードはおもしろいのだが、ただひたすら「この動物はこうやって敵から身を守っています」「この植物はこうやって繁殖しています」というエピソードが続くので、びっくり生き物生態事典感が否めない。
最近児童書コーナーに行くと「変な生きもの」みたいな本がたくさん並んでいるが、それをちょっとだけ大人向けにした本、という印象。
あと気になったのは、書き方が不正確なこと。
「この生物は生き残るために〇〇という戦略を立てた。知恵を使って生き残るための努力をしているのだ」なんてことが平気で書いてある。
あたりまえだが、生物が進化したのは生き残るためではない。たまたま生き残ったものがいて、それが増えた結果進化と呼ばれるようになっただけだ。
当然、著者も知っているはずだ。進化は無目的に起こる(自然選択説)と。
だが、くりかえし「生物が先のことを考えて生き残る方法が高い方法を考えだした」といった表現が語られる。話をわかりやすくするためかもしれないが、これはいただけない。わかりやすくすることは大切だが、嘘をついてはいけない。
著者の専門は雑草生態学だそうだ。なので雑草の話はおもしろい。
なるほど。雑草ってぜんぜん強くないのか。
たしかに森や山の中とかだと、丈の短い草はあまり多くない。大きな樹や草に負けて光や水を手に入れられないからなんだね。
雑草は我々が目にすることが多いからどこにでも生えるような気がするけど、逆に人間の生活の場(植物が生えにくい場所)でしか生きられない。カラスやハトといっしょだね。
外来種が日本ではびこるのも、似たようなことらしい。
日本の在来種だった日本タンポポはいまや絶滅寸前で、我々が目にするのは西洋タンポポばかり。「外来種のほうが生命力が強いからだ」なんていうけど、本来なら日本では日本タンポポのほうが強いはず。なぜなら日本タンポポは日本の里山という環境に特化して進化した植物だから。
手つかずの自然が残っている状態では、先住者のほうが強い。にもかかわらず外来種が駆逐されないのは、人間が新しい環境を生みだしているから。
外来種は敵視されるけど、在来種にとって本当の敵は人間なんだね。よしっ、絶滅させよう(過激派)。
ヒメマス、ヤマメ、アマゴ、イワナはみんなサケなんだそうだ。知らなかった。
出世魚は成長の段階によって呼び名がきまるが、こっちは選んだ進路によって呼び名が変わるのだ。
自衛官や警察官が、入隊する前の経歴によってぜんぜん違う道を進むようなもんだね。防衛大学校や国家公務員試験を経て隊員がベニザケで、ノンキャリア組がヒメマスみたいなもの。
しかしキャリア組が必ずノンキャリア組より成功した人生を送れるわけではないのとおなじように、サケも海に行った方が必ず成功するとはかぎらない。当然ながら海に行けば命を落とす危険性も高いし、川に残ったオスのほうが繁殖に成功するかもしれない。
ここに書いてあるように「大きいオスの隙を見て精子をかける」の他に、「メスそっくりな見た目になったオスが警戒させることなく近づいてこっそり精子をかける」なんて戦略もあるそうだ。すごい。
考えてみれば、みんなが海に行ってしまったら河口や海の汚染といった環境の変化があると全滅してしまうわけで、種の保存という観点でいえば海に行くやつと川に残るやつにわかれたほうがリスク分散になる。
つくづくよく考えられたものだ、じゃなかった、たまたまうまく進化したものだ。
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