2019年12月31日火曜日

【読書感想文】フィクションの検察はかっこいい / 伊兼 源太郎『巨悪』

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巨悪

伊兼 源太郎

内容(e-honより)
東京地検特捜部の検事・中澤源吾と特捜部機動捜査班の事務官・城島毅。高校時代野球部のダブルエースだった二人は、ある事件をきっかけに「検察」の道を選ぶ。二人の前に立ちはだかる、政治家、企業、秘密機関―「消えた二兆円」。真相に辿り着く過程で明らかになる現代の「巨悪」の正体とは。元新聞記者の著者渾身の検察ミステリー巨編。
元新聞記者の小説だけあって、文章が硬っくるしくて読みにくかった。
そんなにちゃんと書かなくていいよ、適当にはしょってくれていいよと言いたくなる。
すごくちゃんと調べてしっかり構想立てて一生懸命書いてるんだろうなーと伝わってくる(もちろんそれはマイナス)。司馬遼太郎かよ。

小説としてはあんまり好きじゃなかった。登場人物がやたらと多くて、説明が事細かで、とにかくまだるっこしい。
主人公ふたりの背景にあるものも、「ああよくある悲しい過去ね」としかおもえなかった。

この半分の分量だったらスピーディーで楽しめただろうなあ。
 復興予算は東日本大震災発生の二ヵ月後、瓦礫処理費用などに第一次補正予算の四兆円が計上され、さらに第二次補正予算で約二兆円、十一月には第三次補正予算の約九兆円が加算されている。財源は半分以上が所得税や法人税、個人住民税などで、主に国民への増税で賄われている。今後三十年近く続く増税を、誰もが「復興のためなら」と受け入れたのは記憶に新しい。
 それにもかかわらず、当初は被災地以外にもその復興予算が投じられた。特に生活再建の本格的な予算として位置づけられた第三次補正予算では、九兆円という大枠が決められると、各省庁が競い合って要求を出し、それを積み上げる形で中身が作られ、いわば、予算の奪い合いが公然と行われた。
 各庁の予算要求の根拠は、政府が作成した復興基本方針だ。その冒頭に掲げられた理念は「被災地における社会経済の再生や生活の再建に国の総力を挙げて取り組み、活力ある日本全体の再生を図る」という立派な一文。このうち、『活力ある日本全体の再生』という文言によって、被災地以外にも復興予算投入が可能になった。
 当時の第三次補正予算で組まれた約五百事業のうち、四分の一が被災地とは無関係の事業だったと現在判明している。例えば、法務省は北海道と川崎の刑務所で職業訓練を拡充するために、文部科学省は今や跡形もない旧国立競技場の補修費に、農林水産省は反捕鯨団体の対策などに大金を使用している。
ノンフィクションだったらめちゃくちゃおもしろいんだろうけどなあ。復興予算について調べてみたくなった。

告発っぽいネタもあるんだけど、自由共和党とか民自党とか言われてもなあ。フィクションだからしょうがないんだろうけど、たぶんモデルもいるんだろうけど。これが実名だったら最高なんだけど。
「検事さん。なにゆえ過去の特捜部では都合の悪い証拠を隠したり、調書を捻じ曲げたりしたんですか」
「簡単に言うと、それができるからでしょう」
「怖い話だ」
「ええ。できるからといって何でもやっていいわけではないのに、それを忘れてしまった検事が複数いた。これは特捜部だけでなく、誰もが陥りかねない問題です。私が言うのも妙ですが、国民全体が特捜部の不祥事を反面教師にすべきでしょう」
 自分の吐いた台詞が中澤の胸に重たく響いた。海老名が幕を下ろすように結論づける。「政治家も特捜部も、お互い責任重大ですな」
この小説の検察はかっこいい。小説の検察
実際の検察組織の中にも巨悪に挑もうとがんばっている人がちょっとはいるんだろう。と、おもいたい。

とはいえ税金で支援者を接待して、あからさまに証拠を隠蔽していることが誰の目にも明らかな政権を今も放置している以上、現実の検察はまるごとダメ組織と言わざるをえないよねえ。悲しいことに。

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