2020年2月20日木曜日

【読書感想文】破壊! / 筒井 康隆『原始人』

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原始人

筒井 康隆

内容(e-honより)
男は“獣欲”を満たすために棍棒を振るって女を犯し、“食欲”を満たすために男の食物を強奪して殺す…。“弱肉強食”時代の人類の始祖・原始人の欲望むき出しの日常を描いた衝撃作はじめ、「アノミー都市」「怒るな」「読者罵倒」「おれは裸だ」「筒井康隆のつくり方」など、元気の出る小説13篇を贈る。

中学生のとき筒井康隆作品を読みあさった。
きっかけは、星新一が好きだったから。星作品をすべて読んで、なにか似た小説はないかとおもって星新一氏と親交のあったSF作家である筒井康隆作品を手に取った。
正直、それほどおもしろいとおもわなかった。おもしろいものもあったが理解不能なものが多かった。星新一のような鋭いオチのショートショートを期待していたので、剛腕でなぎ倒すような筒井康隆作品は性にあわなかった。

でも読んだ。なにしろ活字に飢えていたのだ。わからないままに読んだ。いつかはわかるはずと信じて。結局ほとんど理解できなかったが。
古本屋で五十冊以上は買ったはず。短編作品はほぼすべて買ったのでこの『原始人』もきっと読んだはず。でもまったくおぼえていない。


今読んでみておもう。ああ、これは中学生のぼくには理解できなかっただろうなあ。
この短篇集を一言で表すなら、「破壊」。
常識の破壊、既存の手法の破壊、文学の約束事の破壊。

(現代人が考えるような)理性のない主人公のただひたすら欲望にもとづく行動を書いた『原始人』、倫理や法の欠如した世界が舞台の『アノミー都市』、ショートショートの約束事の破壊を試みた『怒るな』、あっさりと現実が塗りかえられてゆく『他者と饒舌』など、とにかく常識をぶっ壊そうとする意欲的・実験的な作品が多い。

これはまともな小説を数多く読んで「小説とはこういうもの」という確固たる常識が己の中にできあがってから読むことでその破壊活動を楽しむための本。
だから、まさにこれから常識を構築しようとする中学生の時期に読んでもおもしろくないわなあ。
創造より先に破壊をやっちまったわけで、そりゃ理解できんわな。

ちなみに筒井康隆作品には『日本以外全部沈没』というパロディ短篇があるが、ぼくはこれも小松左京『日本沈没』より先に読んだ。



もっとも破壊的な作品ばかりでもなく、初期のドタバタコントのような『おれは裸だ』、わりとオーソドックスなショートショート『抑止力としての十二使徒』、文壇の面白語録である『書家寸話』、自伝風の『筒井康隆のつくり方』など、バラエティに富んだ内容。

中でもインパクトが大きかったのは『読者罵倒』。
 こら。読みさらせこの脳なしの能なしの悩なしめ。手前だ。ふらふらと視線さまよわせ気軽、心安らか、自らは何ひとつ傷つかず読める小説がないかときょとつく手前のことだ。できるだけ自分の理解できる範囲内のことしか書かれていず肥大したおのれが自我にずぶずぶずぶずぶ食いこんでくることのないような小説のそのまた上澄みのみをかすめ取ろうとしている盗っ人泥棒野郎そうとも貴様のことだこの両性具有(ふたなり)め。自分と交接(さか)れる小説を読もうとしながらも自分では書くことのできない無学文盲の手前が、そもそも読む小説を選ぶことのできる生きものかどうか鏡を見てよく考えろこの糞袋。ははあ。自分のことではないと思っているな。おのれより低級な読者のことであろうと思い安心しているのだろうが、あいにくおのれのことだ。今これを読んでいる貴様のことだ。貴様以上に低級な読者がいるとでも思ったかこの低能。
こんな感じで読者に対する罵倒が延々続く。
そういう趣向だとわかっていてもやっぱり読んでいると不愉快になってくるんだからたいしたもんだよ。

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