amazon
世界最先端の戦略がわかる
成毛 眞
ぼくはAmazonヘビーユーザーだ。
毎月Amazonで本を買い、Kindleで電子書籍を読む。
Amazonプライムにも加入していて、Fire TV stickを使ってテレビでPrime動画を観る。
子どものおもちゃもおむつもたいていAmazonで買うし、サンタさんにも「娘が〇〇をほしがってるのでAmazonの商品URL送ります。お願いします」とリクエストする。
写真のバックアップはAmazonフォトストレージに保管してるし、仕事でもAWS(アマゾン ウェブ サービス)サーバーを使っている。
こないだはじめてAmazonでスーツを買った。スリーピースの冬物スーツがなんとタイムセールで7,140円(税込)! これだけ安いならよほど低品質なのかな、でもまあ騙されたとおもって試してみる価値はあるとおもって買ったら、実にいい仕立て。これを紳士服屋で買ったら50,000円はするだろうとおもえるぐらいの品質で大いに満足した。
もはやAmazonのない生活は考えられない。
そんなネット界の巨人Amazonの現状・経営・戦略・思想について、知の巨人である成毛眞さんがまとめた本。
Amazonのすごさは「そこまでやるか」とおもえるぐらいのサービスに尽きる。
消費者向けのサービスは言うまでもないが、マーケットプレイスの出品者に対してのサービスもすごい。
これはすごい。
競合サービスのために在庫管理や発送を代行するのだ。EC(ネット通販)でいちばん手間や費用がかかるのは在庫管理・発送だと聞く。それを一任できるのだから出品者からするとメリットは大きい。
もちろんAmazonも慈善事業でやっているわけではない。
在庫管理・出品を一手に握ることによって出品企業はAmazonから離れられなくなるし、Amazonにとって最大のメリットは「(Amazon以外も含む)オンラインでの全販売データ」が手に入ることだろう。
そしてそのデータは、当然Amazonの利益のために使われる。
Amazonに出店して商品を売っていたら、その販売データをもとにある日Amazonが同じような商品を開発してもっと安い価格で売りはじめるのだ。パートナーとおもっていたらいきなり商売敵(それもどこよりも手ごわい)になるわけで、こんなことされたらよほどブランド力のある会社以外は太刀打ちできないだろう。
なんともおそろしい話だ……。
Amazonの存在は、ほとんどの卸売店・小売店・出版社にとって脅威だ。
が、Amazonの行動は決して邪悪でない(納税については決して褒められた行動をとっていないが、それはむしろ抜け穴のある税制度のほうが悪い)。
むしろAmazonは「すべては顧客利益のために」という行動原理に基づいて動いている、(消費者からすると)超優良企業だ。
株主の利益のためでなく、従業員の利益のためでもなく、お客様のために。
口先だけなら言う企業は多いが、Amazonはその理念を見事に行動に反映させている。
これこそがAmazon最大の強みであり、Amazonのおそろしいところでもある。
ぼくは書店が好きだ。
自分が書店で働いていたこともあって、できることなら書店文化が衰退してほしくないとおもっている。
でも、たとえば店頭にない商品の扱いひとつとっても
・店頭にない商品を注文したときに「ないですね」としか言わない
・取り寄せ注文を依頼しても商品が到着するまでに2週間近くかかる
・2週間で届けばいいほうで、1週間たってから「やっぱり品切れでした」と連絡してくることもある
というリアル書店と(取次制度が諸悪の根源なんだけど)、
・まず品切れになることがほぼない
・新品がなければ中古商品の中からいちばん安いものを勧めてくれる
・新品も中古品も同じプラットフォームで購入できる
というAmazonのどっちを選ぶかといったら、「リアル書店にがんばってほしい」という想いをさしひいても、そりゃあAmazon使うでしょ。
品揃え、価格、スピード、検索性能、レビューの有無、返品対応、スペースの問題(電子書籍)、他のうっとうしい客などどれをとってもAmazonは実店舗に圧勝しているので、本が好きな人ほどAmazonに吸いよせられてしまう。
いまや、Amazonより実店舗のほうがはるかにいいぜ! って根拠を挙げて説明できるのって「立ち読み専門の人」「万引き犯」ぐらいなんじゃない?
残念ながら、書店は今後も減りつづける。
「地域の文化資本を支える」みたいな、言ってる本人もよくわかっていない理由で利便性に太刀打ちできるわけがない。
個人商店が商店街につぶされ、商店街がショッピングモールにつぶされたのと同じで、いくら愛着があろうとたいていの人は愛着のために高くて不便な店で買おうとはしない。
さよなら本屋さん。
これは書店だけの話はない。
ほとんどの小売店が同じ流れに巻きこまれる。衣類や生鮮品を扱う店であっても。
なにしろAmazonがオンライン書店としてスタートしたのは、本という商品に思いがあったわけではなく、「取り扱いが楽で鮮度を気にしなくていいから」という理由だけのためだったそうだ。
だから取り扱うノウハウさえ整えばどんな商品でも取り扱う。
Amazonで上質なスーツを7,200円で買ったぼくがこれから先、紳士服屋でスーツを買うことは二度とないだろう。
友人にもスーツ屋がいるので申し訳ないという気持ちはあるが、義理と数万円の安さを天秤にかけたら、安いほうをとる。
こうして書店がたどった道を、洋服屋もおもちゃ屋もスーパーマーケットも歩むことになる。
誰が悪いわけでもない。企業努力の問題でもない。職業は時代とともに滅びゆくものなのだ。
Amazonは投資を惜しまない。
なにしろAmazonが利益を出すようになったのはここ数年の話で、それまではずっと粗利益のほとんどを設備投資にまわしていて、利益はわずか、あるいは赤字だったのだ。
これはすごく勇気のいる経営だとおもう。ぼくが経営者だったらできない。
万一の事態に備えてキャッシュを置いといたり、株主に分配したりしてしまう。
Amazonは成功したから「赤字を垂れ流しても、事業拡張に投資を続ける」というスタイルが評価されているけど、うまくいかなかったらめちゃくちゃ非難されるやつだもんなあ。
Amazonの投資はいたるところに及ぶ。
サーバーや倉庫はもちろん、物流も自前で確保しようと動いている。
空飛ぶ倉庫!
ラピュタはほんとうにあったんだ!
一見突飛な発想だけど、土地代はかからないし輸送は楽になるし、実現できればいいアイデアかもしれない。
こんなの、日本じゃ法規制されて絶対にできないよねえ。
大型トラックはもちろん、Amazonは航空機、空港、海上輸送手段まで保有しようとしているらしい。
もはや一企業を超えて大国の軍ぐらいのスケールになっている。
そうなれば次は「エネルギー採掘も自前で」ってなるんだろうな(風力発電所は既に保有しているらしい)。
日本のGDPよりもAmazonの売上のほうが大きい、なんて日が来るのはわりとすぐそこかもしれない。
今後もAmazonはどんどん拡大を続けるだろう。
「顧客満足」のために。
もはやAmazonはネット通販の会社ではない。
Amazonでいちばん収益を上げている事業はAWS(サーバー事業)だし、Amazonプライム・ビデオはテレビが持っている利益を奪う。
実店舗、金融などありとあらゆるビジネスがAmazonのターゲットになりうる。
何度もいうが、いちばん怖いのはAmazonが消費者に歓迎されることだ。
品切れのない書店、どこよりも安い価格で買える洋服屋、安定していて安いサーバー、好きなときに観られるテレビ番組、待たずに買えるスーパー、欲しいときに融資してもらえる金融機関……。
Amazonを使わない理由はどこにもない。
「うまい話」になんとなく抵抗を感じてしまうけど、でも、たぶんいい流れなんだよね。たぶん……。
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