2020年2月4日火曜日

【読書感想文】良すぎるからおそろしい / 成毛 眞『amazon ~世界最先端の戦略がわかる~』

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amazon

世界最先端の戦略がわかる

成毛 眞

内容(Amazonより)
「何が勝って、負けるのか」ビジネスの基礎知識も身につく!この一社を知ることは、最新のビジネス感覚を身につけることと同じ。

ぼくはAmazonヘビーユーザーだ。

毎月Amazonで本を買い、Kindleで電子書籍を読む。
Amazonプライムにも加入していて、Fire TV stickを使ってテレビでPrime動画を観る。
子どものおもちゃもおむつもたいていAmazonで買うし、サンタさんにも「娘が〇〇をほしがってるのでAmazonの商品URL送ります。お願いします」とリクエストする。
写真のバックアップはAmazonフォトストレージに保管してるし、仕事でもAWS(アマゾン ウェブ サービス)サーバーを使っている。
こないだはじめてAmazonでスーツを買った。スリーピースの冬物スーツがなんとタイムセールで7,140円(税込)! これだけ安いならよほど低品質なのかな、でもまあ騙されたとおもって試してみる価値はあるとおもって買ったら、実にいい仕立て。これを紳士服屋で買ったら50,000円はするだろうとおもえるぐらいの品質で大いに満足した。

もはやAmazonのない生活は考えられない。
そんなネット界の巨人Amazonの現状・経営・戦略・思想について、知の巨人である成毛眞さんがまとめた本。



Amazonのすごさは「そこまでやるか」とおもえるぐらいのサービスに尽きる。
消費者向けのサービスは言うまでもないが、マーケットプレイスの出品者に対してのサービスもすごい。
 あまり知られていないが、何とFBAはアマゾンを経由しない顧客の注文にも対応できるようになっている。2009年に始めた「マルチチャネル」だ。
 これは、業者がアマゾン以外のサイトで商品を売った場合にも、出荷をアマゾンが代行してくれる仕組みだ。アマゾンの競合である楽天市場やヤフーショッピングでも、アマゾンの倉庫から商品を発送できる。複数のサイトで売っても、することは、商品をアマゾンの倉庫に送ることだけ。それだけやっておけば、どんな複数のサイトで売っても、一本化して出荷できるのだ。
 これは、地味だが革命的な仕組みである。多くのネット通販を手がける業者は、自社サイトを含めた複数のサイトに出品している。普通ならば在庫管理や発送が面倒だが、「マルチチャネル」を使えば、企業はこの面倒な作業から解放される。
これはすごい。
競合サービスのために在庫管理や発送を代行するのだ。EC(ネット通販)でいちばん手間や費用がかかるのは在庫管理・発送だと聞く。それを一任できるのだから出品者からするとメリットは大きい。

もちろんAmazonも慈善事業でやっているわけではない。
在庫管理・出品を一手に握ることによって出品企業はAmazonから離れられなくなるし、Amazonにとって最大のメリットは「(Amazon以外も含む)オンラインでの全販売データ」が手に入ることだろう。

そしてそのデータは、当然Amazonの利益のために使われる。
 たとえば、ある出店企業がマーケットプレイスを利用して、アマゾンが自ら取り扱っていない商品を売り、それがヒットしたとしよう。
 当然、支払いを管理しているアマゾンには販売履歴が筒抜けなので、アマゾンは売れ筋商品と判断する。アマゾンはその商品を仕入れ、直販で取り扱いを始めるだろう。こうやって、アマゾンはどこよりも低価格で商品を提供できる。しかも、システムで機械的に判断できるから、アマゾンの仕入れ担当者はほぼ自動で手配を始めるだろう。
Amazonに出店して商品を売っていたら、その販売データをもとにある日Amazonが同じような商品を開発してもっと安い価格で売りはじめるのだ。パートナーとおもっていたらいきなり商売敵(それもどこよりも手ごわい)になるわけで、こんなことされたらよほどブランド力のある会社以外は太刀打ちできないだろう。
なんともおそろしい話だ……。



Amazonの存在は、ほとんどの卸売店・小売店・出版社にとって脅威だ。
が、Amazonの行動は決して邪悪でない(納税については決して褒められた行動をとっていないが、それはむしろ抜け穴のある税制度のほうが悪い)。
むしろAmazonは「すべては顧客利益のために」という行動原理に基づいて動いている、(消費者からすると)超優良企業だ。

株主の利益のためでなく、従業員の利益のためでもなく、お客様のために。
口先だけなら言う企業は多いが、Amazonはその理念を見事に行動に反映させている。
これこそがAmazon最大の強みであり、Amazonのおそろしいところでもある。


ぼくは書店が好きだ。
自分が書店で働いていたこともあって、できることなら書店文化が衰退してほしくないとおもっている。

でも、たとえば店頭にない商品の扱いひとつとっても

・店頭にない商品を注文したときに「ないですね」としか言わない
・取り寄せ注文を依頼しても商品が到着するまでに2週間近くかかる
・2週間で届けばいいほうで、1週間たってから「やっぱり品切れでした」と連絡してくることもある

というリアル書店と(取次制度が諸悪の根源なんだけど)、

・まず品切れになることがほぼない
・新品がなければ中古商品の中からいちばん安いものを勧めてくれる
・新品も中古品も同じプラットフォームで購入できる

というAmazonのどっちを選ぶかといったら、「リアル書店にがんばってほしい」という想いをさしひいても、そりゃあAmazon使うでしょ。

品揃え、価格、スピード、検索性能、レビューの有無、返品対応、スペースの問題(電子書籍)、他のうっとうしい客などどれをとってもAmazonは実店舗に圧勝しているので、本が好きな人ほどAmazonに吸いよせられてしまう。
いまや、Amazonより実店舗のほうがはるかにいいぜ! って根拠を挙げて説明できるのって「立ち読み専門の人」「万引き犯」ぐらいなんじゃない?

残念ながら、書店は今後も減りつづける。
「地域の文化資本を支える」みたいな、言ってる本人もよくわかっていない理由で利便性に太刀打ちできるわけがない。
個人商店が商店街につぶされ、商店街がショッピングモールにつぶされたのと同じで、いくら愛着があろうとたいていの人は愛着のために高くて不便な店で買おうとはしない。
さよなら本屋さん。


これは書店だけの話はない。
ほとんどの小売店が同じ流れに巻きこまれる。衣類や生鮮品を扱う店であっても。

なにしろAmazonがオンライン書店としてスタートしたのは、本という商品に思いがあったわけではなく、「取り扱いが楽で鮮度を気にしなくていいから」という理由だけのためだったそうだ。
だから取り扱うノウハウさえ整えばどんな商品でも取り扱う。

Amazonで上質なスーツを7,200円で買ったぼくがこれから先、紳士服屋でスーツを買うことは二度とないだろう。
友人にもスーツ屋がいるので申し訳ないという気持ちはあるが、義理と数万円の安さを天秤にかけたら、安いほうをとる。
こうして書店がたどった道を、洋服屋もおもちゃ屋もスーパーマーケットも歩むことになる。

誰が悪いわけでもない。企業努力の問題でもない。職業は時代とともに滅びゆくものなのだ。



Amazonは投資を惜しまない。
なにしろAmazonが利益を出すようになったのはここ数年の話で、それまではずっと粗利益のほとんどを設備投資にまわしていて、利益はわずか、あるいは赤字だったのだ。
 ここで驚くべきなのは、当時アマゾンは利益を生み出していないのにもかかわらず、1999年からの1年間で倉庫を2カ所から8カ所に急拡大していることだ。倉庫の面積は約3万平方メートルから約50万平方メートルに増えた。
 赤字を垂れ流しても、事業拡張に投資を続けるという現在のアマゾンの原型はすでにできあがっていたのだが、当時は有象無象の新興ネットベンチャーが数多く倒産していた時期であり、経営を不安視する声が高まっていた。
 しかし、外部からの評価が低い中でも、当時からベゾスの姿勢はまったくぶれていない。『日経ビジネス』のインタビューでもきっぱりと言い切っている。
「短期的利益を得たい投資家には恐ろしい現象でしょうが、やはり長期的な視点が大切だと思います」
「アマゾンの投資家は私たちに長期展望を持ち、正しい経営を求めています。それこそ(成熟した事業で出た黒字を)新しいビジネスに向けることなのです」

これはすごく勇気のいる経営だとおもう。ぼくが経営者だったらできない。
万一の事態に備えてキャッシュを置いといたり、株主に分配したりしてしまう。

Amazonは成功したから「赤字を垂れ流しても、事業拡張に投資を続ける」というスタイルが評価されているけど、うまくいかなかったらめちゃくちゃ非難されるやつだもんなあ。

Amazonの投資はいたるところに及ぶ。
サーバーや倉庫はもちろん、物流も自前で確保しようと動いている。
 さて、ドローンを飛ばすには、当然のことながら、ドローン専用の基地が必要だ。アマゾンはすでにそれも構想している。なんとアマゾンは倉庫も空に飛ばそうとしているのだ。母艦のようにするらしい。
 アマゾンの物流倉庫は郊外に立地している場合が多く、そこからドローンを都市に飛ばすには遠すぎる懸念があるからだ。「空飛ぶ倉庫」により、ドローンを都市に配備し、顧客までの距離を縮める狙いだ。
 この空飛ぶ倉庫は、ヘリウムガスを使った全長100メートルの飛行船であり、数百トンの品物を積載する計画だ。旅客機との衝突を避けるために、飛行機が飛ぶより高い約1万4000メートルの上空に浮かべるという。
 ドローンは空飛ぶ倉庫から品物をピックアップし、配送した後は上空の倉庫には戻らずに、地上の拠点に向かう。単なる構想にしては非常に細かい計画だ。それもそのはず、なんとアマゾンはすでに米国でこの構想を特許出願しているのだ。これが夢物語の眉唾に聞こえないところがアマゾンの恐ろしさだ。
空飛ぶ倉庫!
ラピュタはほんとうにあったんだ!

一見突飛な発想だけど、土地代はかからないし輸送は楽になるし、実現できればいいアイデアかもしれない。
こんなの、日本じゃ法規制されて絶対にできないよねえ。

大型トラックはもちろん、Amazonは航空機、空港、海上輸送手段まで保有しようとしているらしい。
もはや一企業を超えて大国の軍ぐらいのスケールになっている。
そうなれば次は「エネルギー採掘も自前で」ってなるんだろうな(風力発電所は既に保有しているらしい)。

日本のGDPよりもAmazonの売上のほうが大きい、なんて日が来るのはわりとすぐそこかもしれない。



今後もAmazonはどんどん拡大を続けるだろう。
「顧客満足」のために。
もはやAmazonはネット通販の会社ではない。
Amazonでいちばん収益を上げている事業はAWS(サーバー事業)だし、Amazonプライム・ビデオはテレビが持っている利益を奪う。
 現在、すでに社員向けにテスト実験中だが、店舗で数千種類の商品を買えるだけでなく、事前にネットで注文し、日時を指定して商品を受け取ることも可能だ。顧客が店舗に行くと、従業員があらかじめ注文した商品を袋に詰めて用意しており、車のトランクまで運んでくれる。注文から15分で商品の準備を完了してもらえるという。
 このアマゾンフレッシュの店舗は、物流拠点としての利用も視野に入れている。ネット配送用の生鮮食品の倉庫としても使えるのだ。こうすることで、ネット通販の方の物流拠点もでき、より一層広がるというわけだ。リアルとネットと両方を構えることは、こういう意味もある。「ラストワンマイル」(物流における、ユーザーの手元に商品を届けるまでの最後の区間)を推し進めるアマゾンにとって2000店の店舗網は強力な武器になるはずだ。
 アマゾンから、融資の提案がきた時点で、審査はすでに終わっている。借りたい出品企業はオンラインで金額と返済期間を選択するだけで、最短で翌日に手元にお金が入る。通常の金融機関での融資は1カ月以上の期間を要することを考えれば、その短さは常識を塗り替える。
 このスピード融資は小規模な事業者がビジネスチャンスを逃さないためには、大変ありがたい仕組みだ。
 たとえば、取扱商品が突然SNSで拡散されるなど、思わぬ形で話題になったとする。当然、注文が急増する。業者としては予想外の事態なので、在庫を十分に確保できていない。通常の融資では審査に時間がかかるため、仕入れが間に合わず、販売の機会を逃すことになる。しかしアマゾンレンディングならば、仕入れのタイミングを逃さずに在庫を拡充できる。
実店舗、金融などありとあらゆるビジネスがAmazonのターゲットになりうる。

何度もいうが、いちばん怖いのはAmazonが消費者に歓迎されることだ。

品切れのない書店、どこよりも安い価格で買える洋服屋、安定していて安いサーバー、好きなときに観られるテレビ番組、待たずに買えるスーパー、欲しいときに融資してもらえる金融機関……。
Amazonを使わない理由はどこにもない。

「うまい話」になんとなく抵抗を感じてしまうけど、でも、たぶんいい流れなんだよね。たぶん……。

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