2020年2月18日火曜日

鉄道マエストロ

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電車乗客の指揮者になりたい。

満員電車でタクトをふりまわして他の乗客たちの行動を指揮するのだ。


ほらそこ、もっと奥に詰められるだろ。おまえがそこでふんばってるせいでこっちがぎゅうぎゅう詰めなんだよ。

そこのおっさん、おまえが右か左に寄ればあと一人座れるんだぞ。寄らんかい。

そこのおばちゃん、リュックは胸の前で持つか網棚に上げるかせんかい。じゃまだよ。

スマホ見てる少年、目の前にマタニティつけた女性が立ってるぞ。ちゃんと見ろよ、ただのでぶじゃないぞ。

おねえちゃん、傘は自分の前で持たんかい。人に当たるから。

にいちゃん、壁にもたれて内側を向くんじゃない。他人の顔面と向き合わなきゃいけない人の気持ちも考えんかい。外側を向くのがルールなんだよ。鉄道乗客法で定められてるのを知らんのか。そんなのないけど。



ぼくの的確な指揮で、乗客たちに六方最密充填構造原子のように最適なフォーメーションをとらせるのだ。

マエストロのタクトは片時も休まない。



さあ。もうすぐ駅に着くぞ。降りるやつは準備しろよ。到着してからあわてるんじゃないぞ。

こらこらおっさん。だからといって今から出口に向かおうとするんじゃない。
扉が開いてないのに隙間をつくれるわけないだろ。
どうせ次はターミナル駅。いっぱい降りるんだからそれを待ってから向かっても十分間に合うぞ。

出口横のにいちゃん。そのポジションをキープするんだったらいったん降りんかい。

うわうわうわ。おばちゃん、並んでる人を押しのけて乗りこもうとするんじゃない。よしそこの大学生、そのおばちゃんを一発どついていいぞ。

おいそこの変なやつ、狭い電車内でタクトをふりまわすんじゃない! 周囲の迷惑だろ!
指揮者はぼくひとりで十分だ!


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