2020年2月28日金曜日

ガリバーは巨人じゃない

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電通(企業)のことを形容する言葉として、「広告界のガリバー」というのがあるらしい。

ふうん。まあ巨大代理店だもんなあ。

……ん?
まてよ。
大きいことを表すのに「ガリバー」っておかしくないか?

よく考えたら、ガリバーはでかくないぞ。
小人の国リリパットに行ったから巨人扱いされただけで、ごくふつうの人間だぞ。
しかもその後は巨人の国に行って小人扱いされてるし。

比喩がまちがっている。
まあ「じっさいは大したことないものを大きく見せる」のは広告の常套手段だから、広告代理店である電通を「じっさいは大きくないのに大きそう」なイメージのあるガリバーに例えるのは、あながちまちがいでもないかもしれない。



比喩がまちがっている例はほかにもある。

いちばん有名なのはフランケンシュタインだろう。
モンスターを生みだした博士がフランケンシュタインなのに、怪物の代名詞として使われている。

あと高校生の集まる大会を「俳句甲子園」「漫才甲子園」などというのも気に入らない。
甲子園は野球の全国大会がおこなわれる球場の周り一帯をあらわす地名だ。大会の名前じゃない。
「俳句界の全国高校野球選手権大会」というべきではないだろうか。俳句なのか野球なのかわからんな。
そもそも高校生による大会を別の高校生の大会で例えるって、変じゃないか? エルサレムのことを「キリスト教のメッカ」と呼ぶようなものだ。



以前、津波の映像を流しながらアナウンサーが「まるで怒涛のように津波が押し寄せています!」としゃべっていた。
怒涛のようじゃなくてそれが怒涛そのものなんだよ!

「怒涛」なんてほとんど比喩でしか使わないから本来の意味が失われつつあるのだ。

走馬灯とか金字塔なんて比喩でしか見ないもんな。
金字塔はピラミッドのことだけど、九割の人は知らずに使っている。



比喩でよく使われる人名がある。
必ずしもその人物自体の知名度と一致していないのがおもしろい。

ドン・キホーテやユダなんて、たいていの人はよく知らない。
なのに名前と「無謀」「裏切者」という強烈なイメージだけは知っている。

ちなみに世界三大有名な裏切者は、ユダ、ブルータス、明智光秀だ。
彼らには彼らの正義があったはずなのに、何百年何千年も裏切者の汚名を着せられるなんてかわいそうに。


日本人でいちばん比喩に使われる人物は、弁慶じゃないかとおもう。
物語ではたいてい牛若丸(源義経)が主人公だが、比喩の世界では弁慶が義経を抑えての堂々の一位だ。

同じく、主人公よりも多く比喩で使われる人物として、ワトソンがいる。
物語の世界では「ワトソン役」という言葉はあるが「ホームズ役」とは言わない。

主人公は案外個性がないのかもしれない。脇役のほうが独特のイメージがついていることが多い。
「孫悟空みたい」より「ヤムチャみたい」のほうがイメージが明確だし、
「桜木花道かよ!」より「ディフェンスに定評のある池上かよ!」のほうが強烈な印象を与える。



日本人にかぎらなければ、比喩の世界でいちばんよく使われる人物はジャンヌ・ダルクじゃないだろうか。

ちょっと女性が活躍するとすぐに「〇〇のジャンヌ・ダルク」と言われる。
Wikipediaにジャンヌ・ダルクの異名を持つ人物の一覧なる項目があるぐらいだ。

ちなみに、十年ぐらい前までは高校野球界にすごいバッターが現れるとすぐに「清原二世」と呼ばれていた(「〇〇のダルビッシュ」も大量にいた)。
さすがに清原氏が逮捕された今ではもう言わないだろうな。
次に呼ばれるのは甲子園で活躍した後覚醒剤で逮捕された選手が現れたときぐらいだろうな……。


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