短篇集 こばなしけんたろう
小林 賢太郎
元ラーメンズ(で、いいんだよね? 芸能活動を引退したから)の小林賢太郎氏の短篇集。
ぼくはラーメンズのファンで、DVDはすべて持っているし、舞台『TEXT』『TOWER』やKKPの『Sweet7』も生で観た。
片桐仁氏も好きだが(『シャキーン!』が終わったのがつくづく残念)、多くのラーメンズファンと同じく、より好きなのはラーメンズのブレーン・小林賢太郎氏のほうだ。彼の作る舞台作品はほんとうに見事だ。
そんな小林賢太郎氏による初短篇集(戯曲集は四冊出している)。
まず褒めておくと装丁が美しかった。たいへん凝っている。電子書籍で販売していないのも納得の装丁だ。
で、肝心の中身だが……。
うーん、まあところどころおもしろいところはあるが、ぼくがラーメンズのファンだからってのを差し引いてもおもしろいかと言われると……。
「これを舞台でやったらおもしろいだろうな」とか「これを小林賢太郎さんの語り口で聞かされたら感心するかもしれないな」とか考えてしまう。
まず、文章がうまくないんだよね。ちゃんと意味はとれる。でもそこに作者の個性みたいなものがぜんぜん感じられない。体温を感じない文章。
ああ、わかった。これはト書きなんだ。台本の。だから「誰が」「何を」「どうした」は書かれていても「どうやって」「心情はどうだった」といった描写が少ない。芝居の場合、それは演技で補うものだから。
ここに収められている作品、形式は小説だけど実態はほとんど戯曲だ。
「笑い」について。
表現手段はいろいろあるが、笑いをとるのにふさわしいものとそうでないものがある。
前者の例はマンガや演劇で、後者の例は活字だ。ぼくが活字を読み、声を出して笑ったことはほとんどない。穂村弘氏や岸本佐知子氏のエッセイはめちゃくちゃおもしろいとおもうけど、それでもせいぜいニヤリとする程度。表情も声のトーンも〝間〟も伝えられない活字で笑いをとるのは至難の業だ。
『短篇集 こばなしけんたろう』には、明らかに笑いをとりにいっているものがある。
これがつまらない。おもしろくないどころではない。読んでいてつらくなる。
特にひどかったのが『カジャルラ王国』。ウケを狙いにいっているのが見え見えで、にもかかわらずギャグがことごとく笑えない。ぼくも小学生のときにこういうのを書いていた。つまり小学校の学級新聞レベルのギャグ。それがくりかえされる。
読んでいて「もうやめてくれ」と言いたくなった。
たぶん舞台で観ていたらもうちょっと楽しめたんだろうけど。
比較的よかったものは、ほぼ落語の『ひみつぼ』。やっぱりこの人は小説よりも戯曲が向いているんだな。
『短いこばなし』は、ネタ帳のボツ作品を放出したという感じ。
ああ、そういうことね、ニヤリ。これだけで放出してしまうのがもったいない。ラーメンズが活動を続けていたら、こういうのも肉付けされて一本の作品になっていたのかもしれないな。
いちばん好きだったのは『ぬけぬけと噓かるた』。
もっともらしい嘘うんちくを五十個並べたものだ。
こんなの。ありそうだなあ。「嘘」と言われなかったら信じてしまうとおもう。
特にホワイトハウスの庭の木なんかめちゃくちゃありそう。やってないんだったら、やったほうがいいんじゃないの?
小林賢太郎氏のファンならおもしろいところが見つけられる本なんじゃネイノー。
なんとも煮え切らない感想になってしまったな。
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