2022年5月24日火曜日

一年に一度の服を捨てたくなる瞬間

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 一年に一回ぐらい唐突に「服を捨てたくなる瞬間」が来るので、「よっしゃきたー!」って言いながらどんどん捨てる。


 基本的に服を捨てられない人間だ。基本っていうか応用も発展も捨てられない。ふだん服を捨てるのは「外から見えるところに穴が開いたとき」ぐらいだ。

 Tシャツだと、何回も洗濯してよれよれになって、ぶどうの汁とかがついて汚れが目立つようになってもまだ捨てない。パジャマにまわす。いったんパジャマにすると襟元がびろびろになってもカレーがこぼれても「家の中で着るだけだからまあいっか」となって捨てられない。へたすると二十年ぐらい前に買ったシャツをまだ着ている。

 靴下は穴が開くので、明確に「終わり」がわかる。穴が開いたら捨てる。シンプルだ。
 しかし両方は捨てない。ぼくは黒の無地の靴下しか買わないので(洗濯後にペアの相手を探すのが面倒なので)、片方に穴が開いた靴下が二足あればそれで新たにワンペアできる。したがって片方は置いておく。

 パンツは、うんこを漏らしたら終わり。これもわかりやすい。
 しかしぼくもいいおっさんなのでそうそう漏らさない。数年に一回ぐらいだ。したがってパンツも捨てられない。こないだパンツを履こうとおもったらお尻のところに穴が開いていた。パンツに穴が開くってどれだけ履いたのだろう。十年以上履いたかもしれない。


 身だしなみには気を遣わないけどさすがに外に着ていく服は選ぶ。三ヶ月に一回ぐらいユニクロなどに行ってどかっと買いこむ。
 スーツは毎年買う。仕事ではそこそここぎれいにしないといけないという意識はある。

 買うけど捨てられない。だからどんどん増える。たんすがいっぱいになる。


 そんなわけで、一年に一回の「服を捨てたくなる瞬間」はぼくにとってチャンスタイムだ。
 これは汚い。これは襟がよれよれになっている。これは一年以上着ていない。どんどん理由をつけて捨てていく。ちらっと「もったいない」という意識もよぎるが、ここで立ち止まったらたんすが爆発するので、むずかしいオペに集中しているブラック・ジャックみたいに「なむさん!」と言いながらどんどんごみ袋に放りこむ。

 ひととおりごみ袋に放りこんだらものすごくすっきりする。はあ、やってやったぜ。厄介な癌細胞をとりのぞいた気分だ。


 だが油断は禁物だ。今度は「着なくなった服を捨てにいく」という作業がある。
 これがなかなかおっくうで、すべての仕事を終えた気になっているぼくにとってはなかなかの難事業だ。だがこれはその日のうちにやらなくてはならない。

 なぜなら、このごみ袋を捨てに行かないと、後日洗濯物がたまったときに「着る服ないなー。おっ、これまだ着れるやん」とごみ袋から服をひっぱりだして着てしまうからだ。そういうやつなんだよ、ぼくは。

 これで何度癌が再発したことか。



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