2020年4月30日木曜日

【読書感想文】電通はなぜダサくなったのか / 本間 龍『電通巨大利権』

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電通巨大利権

東京五輪で搾取される国民

本間 龍

内容(e-honより)
五輪エンブレム盗作騒動、ネット広告費不正請求、東大卒女性社員の過労自殺。不祥事続出のブラック広告代理店・電通は、それでも巨大利権を掌握し、肥大化が止まらない…。洗脳広告支配から脱出せよ!巨大イベントで大儲けの仕組み。東京五輪ボランティアに参加してはいけない理由がわかる。

広告界のガリバーと呼ばれる株式会社電通。
(ちなみに前にも書いたけど、ガリバーは巨人じゃなくてふつうのサイズの人間だからね。ガリバーは巨人じゃない
 つまり14年度当時は「電通は売上高2兆3千億円」と発表していたのに、現在は「14年の国内売上高は1兆8千億円」となっているのだ。これなどは、敢えて国内売上高を少なく見せるためのギミックのようにも見える。というのも、あまりにも巨大になりすぎた電通は、独占禁止法に抵触する可能性があるからだ。
 独占禁止法は必ずしもその業界におけるシェアが50%を超えたら適用される訳ではないが、公正取引委員会は過去にも広告業界の寡占化を問題にしてきた(第6章)。電通は自社発表で「国内総広告費におけるシェアは25%」としているが、第三者が検証した数字ではない。
 要するに、あまりに巨大になりすぎた電通は、国内では売り上げの伸びよりも、独禁法抵触回避を最優先にしなければならなくなっているのではないか。なぜなら、企業の宿命である売り上げを追求していけば、電通の売り上げは早晩日本の総広告費の5割を超えてしまう可能性があるからだ。
ふつうの企業は売上を伸ばすことに全力を傾けるものだが、電通の場合は既に売上が大きすぎて独禁法に引っかかるスレスレ(見方によっちゃあもうアウト)なので、売上が増えすぎないように注意しなければならないのだ。すげえ。



と、日本のメディアに対してとんでもなく大きな影響を持っている企業でありながら、電通そのものが話題になることはそう多くない。
電通の商売相手はメディアであり広告出稿したい企業なので、一般消費者と直接かかわることはほとんどない。だから電通を宣伝するテレビCMもやらないし電通の社員も基本的に表に出てこない。

ところがここ数年、電通が話題になることが増えてきた。
女性社員の過労自殺に代表される不祥事が相次いだためでもあるが、それ以上にネットが普及して誰でも情報を発信できるようになったことがある。

インターネットがあたりまえになる前は、情報を発信できる人はかぎられていた。
テレビやラジオの出演者、新聞や雑誌の記者など。
だがテレビもラジオも新聞も雑誌も、そのほとんどが広告の収益によって成り立っている。そしてその広告を出稿するのが電通なのだ。つまりメディアにとっては、直接のお客様なのだ(もちろんその先にはスポンサーがいるわけだけど、直接取引をするのは広告代理店)。

だから昔なら電通にとって都合の悪いニュースがあっても、新聞もテレビも大きく報じなかった。それは電通が圧力をかけるというより、むしろメディア側が勝手に忖度した部分が大きかっただろう。
誰だって、自分たちにお金を払ってくれる人の悪口は大声で言いにくい。

だがインターネットの普及によって潮目が変わってきた。
電通の客でない人が情報を発信できるようになったのだ。
女性社員の自殺もそうだが、最近特にその傾向が強くなったのはオリンピックについてだ。

かつて、オリンピックについてネガティブなことを言う人はメディアにはいなかった。
テレビも雑誌も新聞もオリンピックに利益を得ていたし、なによりオリンピックは電通様が仕切っている興行だったのだ。悪く言えるはずがない。
昔は芝居や相撲などのイベントは地元のヤクザが仕切っていたという。興行主はヤクザに金を渡し、その代わりにトラブルを未然に防いでもらう。トラブルがあったらヤクザに出てきてもらって解決してもらう。そんな持ちつ持たれつの関係があった。
オリンピックと電通の関係もそれに似ている。

だがインターネット、SNSの普及で電通をおそれずにものを言える人が増えた。おかしいことはおかしいと言える人が。
オリンピックなんてしょせんスポーツのイベントなのにどうして巨額の税金をつぎこまなきゃいけないの、招致のときに言ってた話が嘘ばっかりなのにどうして許されるの、当初の予算を大幅にオーバーしてもどうして誰も責任を取らずに税金で補填してもらえるの、東京開催なのにどうして国のお金でやるの、復興五輪とか言ってたけど具体的にどう復興につながるの、どうして役員は高給もらってるのにボランティアはタダ働きなの、ボランティアが熱中症で死んでも誰も責任とらなさそうだけど自己責任になるの、ていうか承知のときに集まって浮かれてたメンバー森喜朗以外いったいどこ行ったの。

こういう声が広がりやすくなった。
この本の著者である本間龍氏も積極的に問題を発信している。
というか言えなかった今までが異常だったんだけど(そしてテレビや新聞は今もまだその異常な世界に浸ってるんだけど)。

ぼくはオリンピックは好きじゃないけど、やる分には勝手にやったらいい。
「日本がひとつに」みたいな気持ち悪いスローガンや、税金を湯水のように使うことさえやめてくれればどうぞご自由に、という感じだ。
でもその「嫌なところ」がまさに電通的なところなのだ。



この本では電通が大きくなりすぎたことの問題点を、メディアとの関係性、政党や政府との癒着、スポーツイベントの商業化など様々な点から論じている。

ただ誤解してはいけないのは、決して電通が邪悪な企業ではないということだ。
もちろん過労死事件やネット広告費不正請求問題に関してはめちゃくちゃ悪いことをしていたわけだが、似たようなことをやっている会社はごまんとある(だからって電通が許されるわけではないけど)。
電通で働いている人だって、大半はいい人なんだろう。ぼくもひとり知り合いにいるけどいい人だし。
みんな一生懸命に仕事をしているだけだ。

過労死事件も不正請求事件も、誰かひとりの責任に押しつけられる問題ではないだろうし、数人が防ごうとしても止められなかった問題だろう。

最大の問題は、電通という会社が大きくなりすぎたこと、力を持ちすぎたことなのだとおもう。
もう誰にもコントロールできない巨大な組織になってしまい、暴走しても誰も止められなくなっているのだ。東京オリンピックだってもう完全に暴走して誰にも手が付けられなくなってるし。


だが、電通の力は今後弱くなってくるんじゃないかとおもう。
あくまで今と比べると、の話だけど。
 インターネットはテレビを中心とした4媒体以外でここ数十年、唯一売り上げが拡大してきた(16年度広告費は1兆3100億円)新興メディアで、電通の統制が同じく唯一及ばない領域である。統制云々というよりも管理者がいないというべきで、新規参入が容易で、日々新しい技術が生まれている。
 だがこの領域は他メディアに比べて収益率が低く、4媒体からの高収益に慣れた電通にとって「労多くして旨みの少ない領域」に映った。そのため電通社内では、ネット領域への出資を拡大すべきか否かで激論が交わされていた。亡くなった高橋さんの所属していたデジタル担当部署の人員が15年になって半分に削減されたのも、収益が低いと判断されたからである。
 この「管理者なき新興メディア」への中途半端な対応が16年9月末に露見したネット業務不正請求事件を発生させ、さらにその悪影響が高橋さんの自殺を生んだ。そしてその事実が1年後にSNSによって拡散し、電通のブランドまで破壊するに至った。電通は自社が軽視してきたインターネットメディアによって、とてつもなく大きな傷を負ったのだ。
ぼくはWeb広告の仕事をしているが、たしかに電通にとってうまみは少ないだろうなとおもう。
理由のひとつはGoogle、Yahoo!、Facebook、Twitter、Amazon、楽天などのプラットフォーム企業が広告のルールを決める支配者になっていること。テレビCMや雑誌広告のように電通がゲームマスターになることができない。

そしてWeb広告は電通のような巨大代理店であろうとぼくがいるような小さな代理店だろうとまったく同じ条件で広告出稿できること。
たとえばリスティング広告と呼ばれるGoogle、Yahoo!の検索結果に表示される広告であれば、電通が1クリック100円で出した広告よりも無名の個人が101円で出した広告のほうが上位に表示されるのだ(実際は価格以外の条件もいろいろあるけど)。
テレビCMのような「お得意さんだから」「電通さんだから」といった融通が利かないのだ。

さらにWeb広告はテレビCMや新聞広告よりも明確に成果が数字で出る。いくら予算をかけたら何人が広告を見て何人が行動を起こしたかが計測できてしまう。
イメージとノリでやってきた会社は(電通がみんなそうとは言わないけれど)苦しいだろう。

また、Web広告を出稿したところでWebに出回る情報をコントロールすることはできない。
なぜならWeb上では既存メディアと違い、広告費をもらわなくても情報発信ができるからだ。
もちろんインフルエンサーに広告費を渡せばその人の発言をある程度コントロールできるだろうが、すべてを抑えることはいくら電通でも現実的に不可能だ。数社を抑えればほぼ全部網羅できるテレビ局や新聞社とはわけがちがう。


……というわけで電通という会社がWeb広告全体に占める影響は(他メディアと比べて)すごく小さい。
Web広告は今後もまだまだ拡大する。新聞やテレビが衰退していくのと対照的に。
ということは、電通の影響力は今後どんどん弱まっていくだろう。

それに。
電通って「かっこいい」から「ダサい」会社になりつつあるんじゃないかな。ダークなイメージがつきすぎて。
皮肉なことに、旧来のメディアで力を発揮すればするほど古臭いイメージが濃くなる。

広告会社にとって、「ダサい」イメージがつくのって致命的だとおもうんだよね。
この本の中で著者は独占禁止法を根拠に「電通解体」を掲げているけど、もしかしたらそんなことしなくても衰退していくんじゃないかとぼくはおもっている。それも急激に。


とはいえ、テレビCMを発注するような役職にいる人はおじいちゃんが多いだろうから、高齢者向けメディアに高齢者向け広告を出稿する高齢者向け代理店としての地位は確固たるものを保つかもしれないけど。


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