サボタージュ・マニュアル
諜報活動が照らす組織経営の本質
米国戦略諜報局(OSS) (著)
越智 啓太(監修・訳) 国重 浩一(訳)
サボタージュマニュアルとは、CIAの前身に当たる米国の諜報機関OSSが作成した、諜報員向けのマニュアル。
第二次世界大戦の敵国の軍事活動や生産性を妨害するためのマニュアル。
マニュアルというとふつうは効率を上げたりミスを減らしたりするためにつくるものだが、このマニュアルは逆。どうやったら効率を下げるか、ミスを減らすか、人々のやる気がなくなるか、という発想で作られている。
当時はまじめにつくったのかもしれないが、ブラックユーモアのようでおもしろい。
といっても、サボタージュマニュアルの大部分は「トイレを詰まらせる方法」とか「燃料タンクに何を入れたら車が故障するか」とかで、悪質ではあるが程度の低いイタズラ、というレベルでどうもくだらない。
そもそも燃料タンクを一人で触れる立場にある人間以外には実行不可能だし。
完全イタズラマニュアル、といった感じ。
これ考えるのは小学生に戻ったようで楽しかっただろうなあ。でも実用性は乏しそう。
だがこのマニュアルの白眉は第11章。
これは一部だが、この“妨害方法”は七十年以上たった現在でも十分通用する……というか多くの企業や官公庁で実行されているよね。
ぼくが前いた会社でも実行されてた。毎日朝礼して誰かが演説したり、なにかというと「それは会議を開いてみんなの意見を聴こう」と言いだすやつがいたり……。
もしかしたらあの人たちはどっかの諜報機関から送りこまれたスパイだったのかなあ……。そうおもいたい……。
おそらく学校教育のせいでもあるんだろうけど、「みんなで話しあえばよい知見が得られる」という思いこみを持っている人は多い。
たしかに集団の水準より下にいるバカからすると「他の人に考えてもらう」は有効な方策かもしれない(だから自分で考えない人間ほど会議をしたがる)。
しかしたいていの会議はレベルの低い人間に議論がひっぱられるので正しい結論が導きだされないことも多い。
まったく同じ能力の人間が、完全に対等な立場で、自由闊達な雰囲気で話しあえば議論も有意義なものになるのだろうが、そんな会議はまずない。
声の大きいやつの意見が通るか、誰も反対しないような無意味な結論(「各自効率性を上げるよう努力する」みたいな)に達するか、後になって「だからおれはあの時反対したじゃないか」と自己弁護するための議論になることがほとんどだ。
もちろん複数人がからむプロジェクトにおいてコミュニケーションは必要不可欠だが、課題解決の手段としては会議はふさわしくない。
「意見のある人間が集まって意見を出し、それを踏まえた上で誰かひとりが方針を決める(もちろん意思決定者と責任をとる人物は同じ)」がいちばんいいやりかたなんだろうなあ。
これもよく見る光景だね。
無能なイエスマンが引き上げられた結果、現場の人間がどんどん辞めていくやつ。
このへんの「生産性を下げる方法」は共感できてすごくおもしろい。
生産性を下げるマニュアルがあるということは、この逆をやればいいだけなんだけど、ほとんどの組織はそれができないんだよなあ……。やっぱり大企業や省庁には諜報員がまぎれこんでてサボタージュ・マニュアルを実行してんのかな。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿