2019年11月20日水曜日

【読書感想文】生産性を下げる方法 / 米国戦略諜報局『サボタージュ・マニュアル』

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サボタージュ・マニュアル

諜報活動が照らす組織経営の本質 

米国戦略諜報局(OSS) (著)
越智 啓太(監修・訳) 国重 浩一(訳)

内容(Amazonより)
CIAの前身、OSSが作成した「組織をうまくまわらなくさせる」ためのスパイマニュアル。「トイレットペーパーを補充するな」「鍵穴に木片を詰まらせよ」といった些細な悪戯から、「規則を隅々まで適用せよ」「重要な仕事をするときには会議を開け」まで,数々の戦術を指南。マネジメントの本質を逆説的に学べる、心理学の視点からの解説付き。津田大介氏推薦!

サボタージュマニュアルとは、CIAの前身に当たる米国の諜報機関OSSが作成した、諜報員向けのマニュアル。
第二次世界大戦の敵国の軍事活動や生産性を妨害するためのマニュアル。
マニュアルというとふつうは効率を上げたりミスを減らしたりするためにつくるものだが、このマニュアルは逆。どうやったら効率を下げるか、ミスを減らすか、人々のやる気がなくなるか、という発想で作られている。
当時はまじめにつくったのかもしれないが、ブラックユーモアのようでおもしろい。

といっても、サボタージュマニュアルの大部分は「トイレを詰まらせる方法」とか「燃料タンクに何を入れたら車が故障するか」とかで、悪質ではあるが程度の低いイタズラ、というレベルでどうもくだらない。
そもそも燃料タンクを一人で触れる立場にある人間以外には実行不可能だし。

完全イタズラマニュアル、といった感じ。
これ考えるのは小学生に戻ったようで楽しかっただろうなあ。でも実用性は乏しそう。


だがこのマニュアルの白眉は第11章。
▼11 組織や生産に対する一般的な妨害
(a) 組織と会議
1.何事をするにも「決められた手順」を踏んでしなければならないと主張せよ。迅速な決断をするための簡略した手続きを認めるな。
2. 「演説」せよ。できるだけ頻繁に、延々と話せ。長い逸話や個人的な経験を持ち出して、自分の「論点」を説明せよ。適宜「愛国心」に満ちた話を入れることをためらうな。
3. 可能なところでは、「さらなる調査と検討」のためにすべての事柄を委員会に委ねろ。委員会はできるだけ大人数とせよ(けっして5人以下にしてはならない)。
4. できるだけ頻繁に無関係な問題を持ち出せ。
5. 通信、議事録、決議の細かい言い回しをめぐって議論せよ。
6. 以前の会議で決議されたことを再び持ち出し、その妥当性をめぐる議論を再開せよ。
これは一部だが、この“妨害方法”は七十年以上たった現在でも十分通用する……というか多くの企業や官公庁で実行されているよね。

ぼくが前いた会社でも実行されてた。毎日朝礼して誰かが演説したり、なにかというと「それは会議を開いてみんなの意見を聴こう」と言いだすやつがいたり……。
もしかしたらあの人たちはどっかの諜報機関から送りこまれたスパイだったのかなあ……。そうおもいたい……。



おそらく学校教育のせいでもあるんだろうけど、「みんなで話しあえばよい知見が得られる」という思いこみを持っている人は多い。
たしかに集団の水準より下にいるバカからすると「他の人に考えてもらう」は有効な方策かもしれない(だから自分で考えない人間ほど会議をしたがる)。

しかしたいていの会議はレベルの低い人間に議論がひっぱられるので正しい結論が導きだされないことも多い。
このうち、スペースシャトル「チャレンジャー」は、1986年1月8日に打ち上げの途中で爆発しました。この事故に際しては、打ち上げ当日に気温が非常に低くなることが予測されたので、シャトルの部品を製作している下請け会社の技術者が、危険性を指摘していたのに、「会議」によってその発言が封殺されて、事故が発生してしまったのです。
 また、スペースシャトル「コロンビア」は、2003年2月1日、発射の際に主翼前縁の強化カーボンとカーボン断熱材が損傷したことにより、大気圏再突入時に空中分解してしまいました。この事故では、NASAの技術者のロドニー・ローシャが、打ち上げ時に断熱材が破損した可能性を早くから指摘し、再三にわたって、人工衛星からその部分を高解像度で撮影することや乗組員に直接チェックさせることを要求したのに対して「会議」でその意見が封殺されて、事故が発生したことが後の調査でわかりました。
「可能なところでは、『さらなる調査と検討』のためにすべての事柄を委員会に委ねろ。委員会はできるだけ大人数とせよ(けっして5人以下にしてはならない)」(5章▼11(a)3)、「重要な仕事をするときには会議を開け」(5章▼11(b)11)といったルールがサボタージュになり得るのは、じつはこのような現象が頻繁に生じるからなのです。

まったく同じ能力の人間が、完全に対等な立場で、自由闊達な雰囲気で話しあえば議論も有意義なものになるのだろうが、そんな会議はまずない。

声の大きいやつの意見が通るか、誰も反対しないような無意味な結論(「各自効率性を上げるよう努力する」みたいな)に達するか、後になって「だからおれはあの時反対したじゃないか」と自己弁護するための議論になることがほとんどだ。

もちろん複数人がからむプロジェクトにおいてコミュニケーションは必要不可欠だが、課題解決の手段としては会議はふさわしくない。
「意見のある人間が集まって意見を出し、それを踏まえた上で誰かひとりが方針を決める(もちろん意思決定者と責任をとる人物は同じ)」がいちばんいいやりかたなんだろうなあ。



 さて、このような「学習性無力感」を意図的につくり出すためにはどうすればよいでしょうか。サボタージュ・マニュアルの次の項目を見てください。「非効率的な作業員に心地よくし、不相応な昇進をさせよ。効率的な作業員を冷遇し、その仕事に対して不条理な文句をつけろ」(5章▼11(b)10)。これを行うと、効率的に一生懸命仕事をしている作業員は自分がやっていることがばからしくなるか、何をすればよいのかわからなくなってきます。つまり、学習性無力感が職場につくられてしまい。作業員の士気は大きく損なわれるのです。
これもよく見る光景だね。
無能なイエスマンが引き上げられた結果、現場の人間がどんどん辞めていくやつ。

このへんの「生産性を下げる方法」は共感できてすごくおもしろい。

生産性を下げるマニュアルがあるということは、この逆をやればいいだけなんだけど、ほとんどの組織はそれができないんだよなあ……。やっぱり大企業や省庁には諜報員がまぎれこんでてサボタージュ・マニュアルを実行してんのかな。


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