2019年11月13日水曜日

【読書感想文】凪小説 / 石井 睦美『ひぐまのキッチン』

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ひぐまのキッチン

石井 睦美

内容(e-honより)
「ひぐま」こと樋口まりあは、人見知りの性格が災いし、就活をことごとく失敗した二十三歳。ある日、祖母の紹介で「コメヘン」という食品商社の面接を受ける。大学で学んだ応用化学を生かせる、と意気込むまりあだったが、採用はよもやの社長秘書。そして、初出勤の日に目にしたのはなぜか、山盛りのキャベツだった。

六歳の娘と毎週のように図書館に行って本を借り、毎晩のように読みきかせている。
年間三百冊以上の児童書を読んでいることになるが、それだけの絵本を読んでいるぼくの一押しが、石井睦美『すみれちゃん』シリーズだ。


「これはおもしろい! なんてみずみずしく少女の感覚を表現しているんだ!」と感動して『すみれちゃんは一年生』『すみれちゃんのあついなつ』『すみれちゃんのすてきなプレゼント 』と立て続けに読んだ。どれもおもしろかった。図書館で読んだ本だが、これは買っておいておかねばとおもい購入もした。

妹の誕生、妹との喧嘩、母親に対する不満、友だちとの関係。さまざまな出来事を通して、すみれちゃんの五歳から八歳までの成長を描いている。
同じ年頃の娘や姪がいるのだが、まさにこの時期の女の子ってこんなこと言ってこんな歌つくってこんなことで悩んでるよなあと共感することばかり。
自分が五歳の女の子だったときのことを思いだすようだ。五歳の女の子だったことないけど。



ということで期待しながら、同じ作者の大人向け小説を読んでみたのだが……。

あれ。あれあれあれ。ぜんぜんおもしろくない。
何も起こらない。謎もない。失敗もない。誤解も生じない。裏切りもない。悪意もない。差別もない。不幸もない。
ほんとうに何もない小説なのだ。ただ女性が就職してちょっとずつ仕事に慣れながらときどき料理を作るだけ。なんじゃそりゃ。
めちゃくちゃ文章がうまいとかユーモアがあるとかなら、平凡な日常もおもしろおかしく描けるのかもしれないが、それもない。
「それであの立派なオープンキッチン! すごいですね、吉沢さん」
 と、まりあは言った。
(そしてそれをすんなり聞いちゃう社長って。まるで妻の言いなりになる夫のようではないですか。)
 という部分は、こころのなかで思うだけだ。
「すごいだろ? 奥さんだって言わないようなことをサラッと言っちゃうんだから。でも、同時にそれができたら、いいなと思ったんだよ。なあ樋口くん、人間っていうのはなんでできていると思う?」
(えっ。いきなりなんですか?)
「水と、タンパク質?」
 おそるおそるまりあは答えた。答えながら、ここは食品商社なのだから、食べたものでできていると答えればよかったと後悔し始めていた。
「なるほど。そうきたか。僕はね、記憶でできていると思っているんだ。そう、人間っていうのは記憶なんだよ」
 予想外の答えにまりあは目を白黒させた。もちろん、ほんとうに白黒させたわけではなく、それは比喩だ。実際には、あきらかに大きなまばたきを二度して、米田を見た。
どうよこの説明過剰な文章。
「あ、安藤部長!」
「部長はなしだよ。倉庫番の安藤さん」
「いえ、そんな……」
「じゃあ、ただの安藤さん」
「ただの安藤さんていうのも、ちょっと」
 まりあがそう言うと、一瞬、安藤はキョトンとした。
「そうじゃないよ。呼ぶときはただのはつけないよ」
 安藤に言われて、今度はまりあがキョトンとする番だった。やや遅れて、
「あっ」
 まりあが小さな悲鳴のような声をあげた。
どうよこのそよ風のようなユーモア。

このつまんなさ、どこかで読んだことあるなと考えておもいだした。
『和菓子のアン』だ……。
「どんなクソつまらない本でも一度手にとったら流し読みでいいから最後までは読む」を信条にしているぼくが、「これはアカン……」と途中で原子炉に放りなげてしまった『和菓子のアン』だ(あぶないからマネしないでね)。
上すべりしている毒気のないユーモア、食に関する半端な蘊蓄、どうでもいい話が延々と続く退屈な展開。どれをとっても『和菓子のアン』だ。

しかし『和菓子のアン』もそこそこ売れていたから、こういうのを好きな人もいるんだろうね。朝ドラが好きな人とか。

ぼくの心には波風ひとつ立たなかったなあ。凪。

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