2019年11月11日月曜日

【読書感想文】収穫がないことが収穫 / 村上 敦伺・四方 健太郎『世界一蹴の旅』

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世界一蹴の旅

サッカーワールドカップ出場32カ国周遊記

村上 敦伺  四方 健太郎

内容(Amazonより)
現地観戦やサッカー協会訪問、選手に突撃取材……南アW杯に出場する32カ国を1年かけて廻ったアシシとヨモケンから成るユニット・Libero。その活動を記した人気ブログ「世界一蹴の旅」が、大幅な加筆修正を経てW杯直前に書籍化!1年に渡る感動と笑撃のサッカーバカによるサッカー外交で、W杯を32倍楽しもう!

某氏との本の交換で手に入れたうちの一冊。

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ぼくはサッカーワールドカップだけはちょっと観る。ただしほとんどダイジェストで。
……という程度のにわかですらないサッカーファンだ。

しかしワールドカップはおもしろい。サッカーが好きというより「世界各国が集うお祭り」が好きなのだとおもう。
最先端の中継技術を楽しめることや、喜びかたにそれぞれの国民性があらわれることや、チーム事情に各国の背負っている政治背景が感じられることなどピッチ以外の見どころも多い。

2014年のワールドカップの時期にNHKスペシャル『民族共存へのキックオフ〜“オシムの国”のW杯』という番組を放送していた。
ぼくはその番組でボスニア・ヘルツェゴヴィナ、そしてユーゴスラヴィアの歴史を知った。その後に見たボスニア・ヘルツェゴビナ代表の試合はすごく楽しめた。
べつにサッカーのことじゃなくても、その国の歴史だとか地理とかがわかるだけでぐっとおもしろくなるのだ。


『世界一蹴の旅』は、サッカーファンの二人が、2010年ワールドカップ出場国32国(日本含む)をめぐった旅行記だ。
短い期間に32ヶ国をまわるということでかなりの駆け足になっているので旅行記としてはものたりないが、これを読んでいるとほんとにそれぞれの国の代表チームに興味が湧いてくるからふしぎだ。2019年の今となっては、とっくに終わった大会なのに。

テレビ局は、いまだに「駅前やパブで浮かれているにわかサッカーファンの声」を垂れながすことが自分たちの仕事だとおもっているが、ちょっと視点を変えるだけでこんなにおもしろいレポートができあがるのだ。

とはいえ、これはこの二人が勝手にやっているからこそおもしろいのであって、テレビとかが入ってきちんとしたレポートになるとつまらなくなりそうな気もする。

「オランダの道路はすごくややこしいからそこで生活しているオランダ人プレイヤーは視野の広いプレーができる」
とか
「アルゼンチン人は遊ぶときはしっかり遊ぶからマラドーナやメッシのように攻守で力の入れ具合の極端に異なるプレースタイルになる」
とか、現地を訪れた一ファンの感想として読む分にはおもしろいけど、公式レポートにしちゃうと「根拠のないいいかげんなことを言うな!」って怒られちゃいそうだもんなあ。



中国から北朝鮮に向かう電車の中で、たまたま乗り合わせた「日本語を専攻していた北朝鮮人」との会話。
対する僕も、北朝鮮人の日常生活や仕事、趣味に関する話などを聞いた。一緒にお酒を飲みながら語り合った中で感じ取れた彼らの考え方や価値観は、元々描いていた北朝鮮の閉鎖的なイメージとはかけ離れており、至極真っ当なものだった。この印象を決定付けた会話がこれだ。「なぜあなたは大学の専攻で日本語を選択したのですか?」と問うと、こんな答えが返ってきたのだ。「隣の国の人と会話できるというのは、人生の財産だと思うんですょ」と。
 彼自身、中国に行き来ができるほどの立場なので、北朝鮮人の中でも比較的グローバルな視点を持った人であることは確かだが、それにしても「日本語は人生の財産」という言葉が北朝鮮人の口から聞けるとは思いもしなかった。
 旅の醍醐味のひとつに、現地にて肌で感じ取った体験を通して、事前に張っていたレッテルを自分自身の手ではがしていくことが挙げられるであろう。今回もまた北朝鮮に対する先入観を自らの手で粉砕することができた。これだから旅は面白い。
へえ。北朝鮮でも日本語を専攻できるんだ。知らなかった。
それってもしかして日本に潜入して諜報活動をする工作員を養成しているのでは……と考えてしまったのはぼくの心が汚れているからですね、そうですね。すみません、魂のふれあいに水をさしてしまって。



いちばんおもしろかったのは、皮肉なことにニュージーランドのレポート。
皮肉というのは、ニュージーランドのレポートにはサッカーの話がまったく出てこないのだ。
ニュージーランドといえば、オールブラックスに代表されるラグビーの国。サッカーがまったく根付いていないのだ。
サッカーコートもサッカーボールを蹴っている人もいなくて、挙句に知り合った人から「サッカーワールドカップじゃなくてラグビーワールドカップの出場国をまわりなさい」と言われる始末……。

サッカーファン的には収穫のない話かもしれないけど、こういうのこそ実際に行ってみないとなかなか感じられない話なのでおもしろい。収穫がないことが収穫だね。


あとアメリカで「サッカーをどうマネタイズするか」みたいな話が出てくるのも、さすがはアメリカという感じでおもしろい。
ヨーロッパの国だったら「フットボールはスピリットを楽しむものだ。金儲けの話ばかりするな!」みたいなことを言われそうなものだけど、アメリカにおけるサッカーは「数あるスポーツのうちのひとつ」なのでドライにビジネスとしての現状を分析している。
プロである以上は金を稼がないといけないわけだし、金を稼げればいい選手が多く集まってくるわけだから、強くするためにもアメリカ的な視点が大事なんだろうね。

日本だと「子どもの野球離れが進んでいる」「この競技をどうやって盛りあげるか」と議論しても「どうやって金を稼ぐか」という話にはなりにくいよね。
「どう魅力を発信していくか」「もっとボランティアの活用を」みたいな声が多数を占めそう。そして衰退してゆく。
やっぱりスポーツは金儲けをしなきゃだめだよね。
ゴルフとかテニスなんかは(一部のプロは)すごく儲かるから、子どものときからやらせるわけだもんね。



「サッカー」という切り口であちこちまわるのはおもしろいね。
こういうワンテーマで掘り下げた旅行記があったらもっと読みたいな。

しかしこの本が物足りないのは、2010年ワールドカップ本選の話がまったく出てこないこと。
ワールドカップ直前に刊行された本なのでしょうがないんだけど、「事前情報では〇〇だったけど本選では××だった」みたいな後日談とあわせて読みたかったなあ……と2019年のぼくとしてはおもってしまう。
わがままな要望だけど。


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