はだかの起原
島 泰三
はだかの起源といっても、「男は何歳から女の裸に興味を持つのか」とか「服を脱ぐと気持ちいいのはなぜなのか」みたいな話ではなく、「なぜ人類は体毛に覆われていないのか」というお話。
ううむ。
考えたことなかったけど、言われてみるとふしぎだなあ。
ぜったいに体毛はあったほうがいいよね。毛に覆われているほうが寒さや乾燥にも強いし、直射日光から肌を守ってくれるし、けがもしにくい。
体毛に覆われていない哺乳類は、ヒトだけではない。
きわめて少ないが、いるにはいる。
クジラ、セイウチやゾウアザラシなどの海獣、ゾウやサイやカバ、イノシシ科バビルーサ、ハダカオヒキコウモリ、ハダカデバネズミ。そしてヒト。
『はだかの起源』では、それぞれの動物がはだかである理由を説明する。
クジラのように一生を水中で過ごす生物には毛は必要ない。
体毛には防水、保湿、保温などの効果があるが、水中なので当然防水も保湿も関係ない。また保温につながるのは毛と皮膚の間に空気が入るからなので、ずっと水中にいるのであれば保温効果もない。(ただしラッコのように陸にも上がる動物は毛があったほうがいい。毛の中に空気を蓄えることで保温できるから)
ゾウやセイウチのように体重一トンを超える動物は、体重の割に体表面積が小さくなるので、熱を放散させるために毛がないほうがいい。
ハダカデバデズミは土の中に巣をつくり、巣の入り口を塞ぐことで湿度を保ち、仲間同士でくっついて熱を保つことができるので毛が無くても大丈夫。
……というように、それぞれの動物ごとに毛のない理由をひもといてゆく。
つきつめると、保湿、保温の機能を捨ててもいい哺乳類だけが、はだかでも生き延びることができるのだ。
ところがヒトの身体には保温、保湿の機能が備わっていない。
なぜヒトははだかになったのか?
人類水生生活説などいくつかの理由が提唱されているが、著者はひとつひとつ根拠を挙げて反証してゆく。
で、著者の出した結論がおもしろい。
それは「はだかのほうがいい理由なんてない。ヒトのはだかは単なる欠陥である」というものだ。
たまたまヒトは火や衣服や住居をつくることができたから、欠陥品だけど生きのびることができただけ、というものだ。
これは、あたりまえのようでなかなかできない発想だ。
ついついぼくらはヒトこそがいちばん高等な動物であるとおもってしまう。いちばん優秀な動物だから完全無欠の存在だ、と。
でもそうでもない。ヒトは欠陥だらけだ。
弱いし、一度にたくさんの子を産めないし、脳が発達しているせいで余計なことまで考えてしまうし。
はだかであることに理由なんてない。
衝撃的な結論だ。これが正しいかどうかはわからないけど。
……と、「ヒトはなぜはだかなのか?」という謎解き部分もおもしろかったのだが、この本の真骨頂はそこではない。
なんといってもすごいのが、著者の口の悪さだ。
もう、悪口のオンパレードなのだ。
ダーウィンを筆頭に、他の研究者をけちょんけちょんに書いている。
議論が甘いからといって、人間性から知性まで徹底的にけなす。
たとえばこんなふうに。
(太字・下線はぼくによる)
はじめは「四方八方に喧嘩売りすぎだろ……。なんてめんどくさそうな人なんだ……」とあきれていたのだが、そのうち悪口がおもしろくなってきた。
一応フォローしておくと、著者は全方位的に喧嘩を売っているわけではない。評価するところは評価している。
とはいえ、さすがに度が過ぎる。
論旨が甘いからといって「グウタラ」だの「問題がどこにあるのかを本当は自分でも分かっていない」だの。挙句には「人間世界に愛想をつかしている」ときた。悪魔に身を売ったのかよ。
あまりに悪口の表現が多彩すぎて、議論を展開するときよりも悪口書くときのほうがエネルギー使ってるんじゃねえのとおもえるぐらい。
もしかしたらダーウィンの悪口を書きたくてこの本を書いたのでは?
いやあ、いろんな意味で楽しませてもらった。
おもしろい本ですよ。
著者とお近づきにはなりたくないけど。
その他の読書感想文はこちら
ハダカデバデズミは土の中に巣をつくり、巣の入り口を塞ぐことで湿度を保ち、仲間同士でくっついて熱を保つことができるので毛が無くても大丈夫。
……というように、それぞれの動物ごとに毛のない理由をひもといてゆく。
つきつめると、保湿、保温の機能を捨ててもいい哺乳類だけが、はだかでも生き延びることができるのだ。
ところがヒトの身体には保温、保湿の機能が備わっていない。
なぜヒトははだかになったのか?
人類水生生活説などいくつかの理由が提唱されているが、著者はひとつひとつ根拠を挙げて反証してゆく。
で、著者の出した結論がおもしろい。
それは「はだかのほうがいい理由なんてない。ヒトのはだかは単なる欠陥である」というものだ。
たまたまヒトは火や衣服や住居をつくることができたから、欠陥品だけど生きのびることができただけ、というものだ。
これは、あたりまえのようでなかなかできない発想だ。
ついついぼくらはヒトこそがいちばん高等な動物であるとおもってしまう。いちばん優秀な動物だから完全無欠の存在だ、と。
でもそうでもない。ヒトは欠陥だらけだ。
弱いし、一度にたくさんの子を産めないし、脳が発達しているせいで余計なことまで考えてしまうし。
はだかであることに理由なんてない。
衝撃的な結論だ。これが正しいかどうかはわからないけど。
……と、「ヒトはなぜはだかなのか?」という謎解き部分もおもしろかったのだが、この本の真骨頂はそこではない。
なんといってもすごいのが、著者の口の悪さだ。
もう、悪口のオンパレードなのだ。
ダーウィンを筆頭に、他の研究者をけちょんけちょんに書いている。
議論が甘いからといって、人間性から知性まで徹底的にけなす。
たとえばこんなふうに。
(太字・下線はぼくによる)
はじめは「四方八方に喧嘩売りすぎだろ……。なんてめんどくさそうな人なんだ……」とあきれていたのだが、そのうち悪口がおもしろくなってきた。
一応フォローしておくと、著者は全方位的に喧嘩を売っているわけではない。評価するところは評価している。
とはいえ、さすがに度が過ぎる。
論旨が甘いからといって「グウタラ」だの「問題がどこにあるのかを本当は自分でも分かっていない」だの。挙句には「人間世界に愛想をつかしている」ときた。悪魔に身を売ったのかよ。
あまりに悪口の表現が多彩すぎて、議論を展開するときよりも悪口書くときのほうがエネルギー使ってるんじゃねえのとおもえるぐらい。
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いやあ、いろんな意味で楽しませてもらった。
おもしろい本ですよ。
著者とお近づきにはなりたくないけど。
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