2019年10月3日木曜日

【読書感想文】計画殺人に向かない都市は? / 上野 正彦『死体は知っている』

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死体は知っている

上野 正彦

内容(e-honより)
ゲーテの臨終の言葉を法医学的に検証し、死因追究のためとはいえ葬式を途中で止め、乾いた田んぼでの溺死事件に頭を悩ませ、バラバラ殺人やめった刺し殺人の加害者心理に迫る…。監察医経験三十年、検死した変死体が二万という著者が、声なき死者の声を聞き取り、その人権を護り続けた貴重な記録。

元監察医によるエッセイ集。あと小説もちょっと(たぶん実話をそのまま書くのはプライバシー的にまずいので事実に若干手をくわえて小説にしたんだろう)。

監察医とは、変死があったときに解剖をして不審な点がないかを調べる医師のことだそうだ。
「変死」と聞くとついつい「奇妙な恰好をした死体が姿を現した」という横溝正史世界的な死に方を想像してしまうが、医師が病死であると明確に判断したもの以外の死は法律的にはすべて「変死」という扱いになるそうだ。
だから交通事故死も自殺も変死になるし、自宅で心臓発作を起こして死んだなんて場合も変死扱いになるそうだ。
日本で死ぬ人の10~20%ぐらいは「変死」だそうで、だからそんなにめずらしいものではない。

「朝起こしに行ったら死んでいた」とか「風呂場で心臓発作を起こしたらしく死んでいた」なんてのはよく聞く話だ。
もちろんその大多数は病死なんだけど、ごくまれに「家族が殺して病死に見せかけた」というケースもあるそうだ。

で、解剖をしてそれを暴くのが監察医の仕事。
検死のプロである監察医が「病死にしては不自然な点がある」と判断すれば、そこから警察が捜査を開始するわけだ。

そういやこの前、テレビで「死体農場」というものを見た。
アメリカにある実験施設で、死体を様々な環境に放置して、死後どんな変化が起こるのかを観察するための施設だそうだ。
温度や湿度などを変えて死体の腐敗進行度合いを見ることで、犯罪事件の捜査に役立てるのだという。


日本ではそこまでのことはできないだろうが、監察医は死体に関する知識を多く持っているから、殺人事件の捜査には大いに貢献してくれる。
 臨死体著者の話を聞いたことがあるが、その人の場合は、かなり以前に死んだおじいさんが現われて、遠くの方からこっちへ来いと手招いていたが、行かなかった。もしもその通りにしていたら、自分は死んでしまったのかもしれないといっていた。
 私には臨死体験はないが、そのような現象があるならば、死に近づいたために心不全や血圧の低下の状態が起き、脳の血液循環不全のために幻想が出現したのではないかなどと、私は考えてしまう。その意味では、ゲーテが死ぬ前に残した有名な言葉「もっと光を!」は納得のいく言葉だと思っている。
 いまわの際の一言が、こうして現代までいい伝えられているのは、ゲーテという偉大な詩人の言葉であったからであろうし、とらえる側も言葉の中にゲーテを意識し、すばらしくふくらんだイメージを抱いて味わっているためでもあろう。
 だが、解剖生理学的に考察してみると、死が近づくと少なからず心不全、呼吸不全、脳機能不全などが生じ、神経系統の反応は鈍くなり、思考力も視力も衰える。体温も低下し、筋肉の緊張もゆるんでくる。
 バレーボールのような球形をしている眼球も、神経が麻痺すると緊張がゆるみ、たとえばラグビーのボールのような形に歪みが生じてくるのではないだろうか。そうなると正常時の焦点はズレて正しい像を網膜に結ばなくなる。
 脳機能の低下と焦点のズレなどから、明るさを感ずる力も弱くなるため、死期が近づくと、目の前が暗くなり、ものが見えにくくなる。

ふつうの医師は生きている人たちの病気を診るのが仕事だけど、監察医は死体を調べるのが仕事。同じ医師の資格を持っていても、相手はまったくちがう。

犯罪を見逃さないためには欠かせないポジションだね。

……とおもったら、この監察医制度があるのは全国で五都市だけ(東京23区・大阪市・名古屋市・横浜市・神戸市)だそうだ。
じゃあその他の地域はどうしているのかというと、監察医ではなく、そのへんのお医者さんが呼ばれて調べるのだそうだ。近所の内科クリニックのお医者さんが検死をしたりするのだとか。

専門医が見れば「死後この時間でこうなっているのはおかしい」とか「自殺でこんな痕がつくはずがない」とか気づくようなことでも、一般の医師なら見逃してしまうこともよくあるだろう。

たぶん、「自殺や事故に見せかけた殺人」が見過ごされることもよくあるんだろうな。

ということで、もしも計画殺人をするなら監察医制度のある五都市以外でやるのがオススメだぜ!


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