2019年10月1日火曜日

夢のような道具、夢が叶った時代

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子どもの頃、カメラがほしかった。

ぼくだけではないとおもう。
子どもはみんな写真が好きだ。なにかというと撮りたがる。
今でも、大人がカメラを構えると子どもたちは「撮らせて!」と寄ってくる。

今だったらスマホを貸して「ここを押すんだよ」と言えば済む話だが、ぼくがこどものときはそうかんたんにカメラを貸してもらえなかった。

カメラがいまより高価だったこともあるが、それよりもフィルム代がもったいなかったことのほうが大きい。

若い人でも知っているとおもうが、昔のカメラは撮影にフィルムが必要だった。
フィルムは27枚撮りとか36枚撮りとかあって、正確にはおぼえていないが500円以上はしたとおもう。
で、写真を撮った後に現像して写真としてプリントするのにもお金がかかった。お店や枚数によって料金はちがったが、1,000円近くはした。
つまり1枚の写真を撮影してプリントするのに、50円ぐらいかかっていたわけだ。

今だったらスマホで10枚ぐらいあっという間に連写してしまうが、当時なら10枚撮れば500円がふっとぶことになる。
当然、子どもに気軽に「撮っていいよ」なんて言ってくれる大人はいなかった。



中学生ぐらいのとき、カメラを買おうとおもって調べたことがある。
カメラ本体なら、お年玉とかで十分買えるものがあった。
けれど断念した。
上記のように、ランニングコストがかかるからだ。

写ルンです(使い捨てカメラ)をかばんに入れて持ち歩いていたが、めったに撮らなかった。ここぞというときにしか撮らないので、36枚を撮りおわるのに半年とか一年とかかかった。

現像して写真を目にする頃にははじめのほうに撮った写真のことなんか忘れているので、はじめて見るのに「あーこんなこともあったなー」と古いアルバムをめくるような(この表現も伝わらないかも)感覚を味わえた。

高校生になって自由に使えるお金が多少増えたことで写真を撮るペースは増えたが、それでもフィルムを使い切るのに一ヶ月はかかった。

大学生になってはじめてちゃんとしたカメラを買った。
中国に行ったときに買った「長城」という謎のブランドのカメラだ。中国で買ったのは、もちろん安かったからだ。日本円にして1,500円くらいだった。

けれど長城はあまり使わなかった。
もうそのころにはデジカメが世に出ていたし、携帯でも(粗いとはいえ)写真を撮れるようになっていたからだ。
ほどなくしてぼくも30,000円ぐらい出してコンパクトデジカメを買い、フィルムカメラとはおさらばした。



こないだ親戚が集まったとき、娘、姪、甥にデジカメをプレゼントした。
トイカメラというやつで、まるっこくてかわいいデザインのおもちゃのカメラだ。
おもちゃといってもMicroSDカードを差しこめば写真を何千枚も撮れるし、USBで充電もできる。モニターもあるから、PCがなくても撮った写真を見ることができる。
フラッシュとかズームとかはついていないが、子どもが撮って遊ぶだけなら十分すぎる機能だ。

これが1台3,000円で買えた。
ぼくが15年前にはじめて買ったデジカメの10分の1の値段。でも画素数は同じぐらい。メモリは進化しているので保存できる枚数はずっと多い。

子どもたちは大喜びして写真をばしゃばしゃと撮っていた。
ぼくのおしりを撮ってきゃっきゃと笑っている。

ぼくが子どもの頃だったら、くだらないことに使うなと叱られたことだろう。
けれど誰も叱らない。どれだけ撮ってもフィルム代も現像代も電池代もかからないのだから。
くだらないことに使ってもいい時代になったのだ。
いい時代になったものだ。



ちなみにぼくが子どもの頃にずっとほしかったものは、カメラのほかにもうひとつある。

トランシーバーだ。
あの当時、トランシーバーにあこがれなかった子どもはたぶん一人もいなかっただろう。でも今は誰もほしがらないんだろうなあ。
え? トランシーバーとは何かって?

昔の少年がみんな憧れた、夢のような道具だよ。
残念ながら、その夢はもう叶っちゃったんだけどね……。


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