ゼロからトースターを作ってみた結果
トーマス・トウェイツ(著) 村井 理子(訳)
いやあ、おもしろい!
今年読んだ中でナンバーワンのおもしろさだった。
内容は、タイトルがすべて表している。
トースターをゼロから作る。一からではない。ゼロから。
だから鉱山に行って鉄鉱石を拾い、じゃがいものでんぷんからプラスチックを作ろうとし(これは失敗したけど)、銅の含有量の多い水を電気分解して銅をとりだし、辺境の山でマイカ(雲母)を採取する。
この世紀のプロジェクトに挑むのはイギリスに住むただの大学生。
無謀すぎる。
じっさい、かなり失敗している。ずるもしている(ニッケルはかなりずるい)。
それでも著者は、あの手この手を使いながらトースター(らしきもの)をゼロから作ってしまうのだ。
本を読んでいてこんなにわくわくしたのはひさしぶりだ。
子どものときに『ロビンソン・クルーソー』や『あやうしズッコケ探検隊』を読んだと同じぐらいの興奮を味わった。
たとえば、これは家庭用電子レンジで鉄鉱石から鉄を精製しているところ。
ははははは。どこが「なんかよさげ?」なんだ。
SHARP製電子レンジの断末魔の絶叫が聞こえてくるようだ。
しかしこれで鉄が取りだせたというのだから驚きだ。SHARPの技術者もびっくりだろう。
ちなみに「電子レンジを使うなんてずるいじゃないか!」とおもうかもしれないが、著者ははじめはちゃんと溶鉱炉を作ってるからね。それで失敗してるからね。
こんな調子で次々にトースターのパーツをつくっていく。
工夫と妥協を重ね、ときにはカナダの法律も犯しながら、ついにはトースター(らしきもの)を完成させる(そのトースターでパンが焼けたかどうかは本を読んでたしかめてね)。
この本の表紙に載っている、黄色い汚らしいかたまり。それが手作りトースターだ。
これを作るのになんと15万円かかったそうだ。
こんな代物(といったら失礼だけど)でも作るのに15万円かかるわけで、もしも店で売っているのと同じ性能・デザインのトースターをゼロから作ろうとおもったら100万円じゃきかないだろう。
それが店に行けば1000円もしないぐらいの価格で買える(しかもその中には製造元や販売店の利益も入っている)わけで、なんともふしぎな感覚になる。
我々の生活が、どれだけ多くの科学技術に支えられているか、そしてその恩恵を我々がどれだけ安価で享受しているかを気づかされる。
産業革命以後の技術というのは、ほとんどが大資本や工作機械や電気エネルギーがあることを前提にしたもので、個人が利用するにはまるで役に立たないものなのだ。
もしも地球からあらゆる機械が消えてしまったとすると、我々の暮らしはあっという間に16世紀頃の生活に戻ってしまうのだろう。 いくら21世紀の知識があったとしても、機械を持たない我々にはそれを使いこなすことができないのだから。
科学技術に支えられた暮らしについての認識を改めて考えなおすきっかけになる……とかむずかしいことは考えなくていいから、とにかく読んでみてほしい! ただ単純におもしろいから!
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