2019年9月12日木曜日

【読書感想文】力こそが正義なのかよ / 福島 香織『ウイグル人に何が起きているのか』

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ウイグル人に何が起きているのか

民族迫害の起源と現在

福島 香織

内容(e-honより)
中国共産党に忠実で、清く正しい人々。ゴミ一つ落ちておらず、スリもいない完璧な町。だが、この地のウイグル人たちをよく観察してみると、何かがおかしい。若い男性は相対的に少なく、老人たちに笑顔が見られない。観光客に接する女性たちの表情は妙に硬い。いまSF小説の世界にも似た暗黒社会が、日本と海を隔てた隣国の果てにあることを誰が想像しただろうか。さらに共産党による弾圧の魔手は、いまや在日ウイグル人にまで及んでいるという。現地ルポとウイグル人へのインタビューから浮かび上がる「21世紀最悪の監獄社会」の異様な全貌。

まずはウイグルについて。
ウイグル族は、中央アジア(今のカザフスタン・ウズベキスタン・キルギス)などに住む民族。中国西部にも多く住んでおり、主に新疆ウイグル自治区という場所に住んでいる。

で、この本の「ウイグル」は新疆ウイグル自治区のことを指す。
一応国際的には中国の一部ではあるが、中国の多数派である漢民族とは人種も言葉も宗教も違うわけで、実質は半独立国家としてやってきた。
ところが、2014年のウルムチ駅爆発事件(習近平国家主席の暗殺未遂事件。犯人の中にウイグル人がいたとされる)をきっかけに、ウイグル自治区への締め付けが強化。
ウイグル人である、イスラム教徒であるというだけの理由で中国共産党から様々な迫害を受けるようになった……というのをまず前提として知っておいてもらいたい。

中国の自治区といえば、ちょうど北京オリンピックのタイミングでチベット自治区への弾圧がわりと話題になった。今はすっかりニュースにならなくなったが、新奇性がなくなったから報道されなくなっただけで今も弾圧は続いているのだろう。

今は香港のデモがニュースになっているが、こちらもそのうち世界の関心が失われていくだろう。中国はそれを待っているのかもしれない。



ウイグル人が弾圧されていることはちらっと聞いていたが、詳しいことはまるで知らなった。
『ウイグル人に何が起きているのか』に書かれていることはぼくの想像よりもずっとひどい現実だった。
 尋問のあとは、洗脳だった。いわゆる「再教育施設」に収容され、獣のように鎖でつながれた状態で3カ月を過ごした。小さな採光窓があるだけの12㎡ほどの狭い部屋に、約50人が詰め込まれた。弁護士、教師といった知識人もいれば、15歳の少年も80歳の老人もいた。カザフ人やウズベク人、キルギス人もいたが、ほとんどがウイグル人。食事もトイレも就寝も“再教育”も、その狭く不衛生な部屋で行われた。午前3時半に叩き起こされ、深夜零時過ぎまで、再教育という名の洗脳が行われる。早朝から1時間半にわたって革命歌を歌わされ、食事前には「党に感謝、国家に感謝、習近平主席に感謝」と大声でいわされた。
 さらに、被収容者同士の批判や自己批判を強要される批判大会。「ウイグル人に生まれてすみません。ムスリムで不幸です」と反省させられ、「私の人生があるのは党のおかげ」「何から何まで党に与えられました」と繰り返す。
「『私はカザフ人でもウイグル人でもありません、党の下僕です』。そう何度も唱えさせられるのです。声が小さかったり、決められたスローガンを暗唱できなかったり、革命歌を間違えると真っ暗な独房に24時間入れられたり、鉄の拷問椅子に24時間鎖でつながれるなどの罰を受けました」と当時の恐怖を訴える。
 さらに、得体の知れない薬物を飲むように強要された。オムルは実験薬だと思い、飲むふりだけをして捨てた。飲んだ者は、ひどい下痢をしたり昏倒したりした。食事に豚肉を混ぜられることもあった。食べないと拷問を受けた。そうした生活が8カ月続いた。115kgあったオムルの体重は60kgにまで減っていた。
「同じ部屋に収容されていた人のなかから毎週5、6人が呼び出されて、二度と戻ってきませんでした。代わりに新しい人たちが入ってきます。出て行った人たちはどうなったのか」
仮に囚人や捕虜に対する扱いだったとしても、非人道的と言われるレベルだ。

ましてや、罪のない人に対する「再教育」なのだから、到底許されるような話ではない。
(「115kgあったオムルの体重は60kgにまで減っていた」だけは、数字だけ見ると健康的でいいじゃないかとおもってしまった。すまぬ)

欧米のジャーナリストらもこういう現実を指摘しているが、中国国内ではなかなか信じてもらえないらしい。
信じたくない気持ちもわかる。いくらなんでも自分の国はここまでひどいことはしないだろう、と思いたくなる気持ちは。

ぼくもショックだった。
これが北朝鮮の話だとかアフリカの独裁軍事国家とかの話であれば、「まあ世界にはそんなひどい国もあるだろう」とすんなり受け入れていたとおもう。

しかし、中国のような大国が、もうすぐ世界一の経済大国になろうかという国が、国連の常任理事国が、まさかこんなひどいことをするなんて。


大躍進政策の惨状だとか文化大革命だとか天安門事件での非道なおこないは知っていたが、ぼくにとっては歴史上の出来事だった。
ドイツのナチスやカンボジアのポル・ポトと同じような「過ぎ去った時代の話」だった。

しかしよく考えたら、ナチス政権やポル・ポト政権と中国共産党には大きな違いがある。
ナチスやポル・ポトは政権崩壊したのに対して、中国共産党は今もずっと政権を握ったままだということだ。根っこのところはそんなに変わっていないのかもしれない。



 中国当局がテロに関与している要注意国家としてリストアップしている26カ国、エジプトやサウジアラビア、ケニアなど中東、アフリカのイスラム圏に留学している学生が、まず呼び戻された。中国当局は、海外でウイグル人たちがより深いイスラム教に染まることを警戒したのだという。帰国した学生たちは身柄を拘束され、再教育施設に放り込まれ、なかには逮捕され、犯罪者として投獄された者もいた。
 危険を察知して帰国しなかった学生に対しては、たとえばエジプトでは、中国当局の要請を受けて当局が留学生たちを拘束した。エジプト当局は2017年7月の段階で、少なくとも200人のウイグル人留学生の身柄を拘束し、中国に強制送還した。留学生たちに対する身柄拘束の理由は告げられなかったという。
 一部のイスラム国家政府は中国経済に依存しており、中国当局の強い要請に逆らえない事情があった。こうして2018年までにエジプトだけでも3000人、全世界でおよそ8000人のウイグル人留学生が帰国させられた。帰国後の消息はほとんど不明という。再教育施設か刑務所に入っているか、あるいは死亡させられているか。日本にいるウイグル人留学生の状況については後述するが、少なくとも10人が学業半ばで帰国させられている。
国内にいる少数民族を弾圧するだけではなく(それもひどいが)、国外にいる人まで半ば強制的に呼び戻して身柄を拘束するというのだからおそろしい。

いい仕事があるとだましたり、戻らないと家族がどうなってもしらないぞと脅したり、その国に対して経済的な圧力をかけたりして、あの手この手で連れ戻そうとする。
なにもそこまでしなくてもとおもうが、内情が外国に知れ渡ることを恐れているのだろう。

「再教育施設」に入れられたウイグル人は、人体実験をさせられたり、強制的に臓器を摘出されているのではないかと言われているそうだ(はっきりした証拠こそないものの、異常に高い臓器移植件数などを見るかぎりはそうとしかおもえない)。
ひええ。ヤクザじゃん。いやいまどきヤクザでもここまでしないだろう。


さっきも書いたが、なによりおそろしいのはこれをやっている中国が世界ナンバーワンの経済大国になろうとしていることだ。
やっていることは東アジアのならず者国家とされている北朝鮮よりひどいじゃないのか、とおもえる。
けれどそれが(表面上は)大きな問題にならないのは、北朝鮮より軍事力があって経済的影響力も大きいからだ。
中国から経済援助を受けている国は中国共産党に逆らえない。日本外務省も、ウイグル問題については見て見ぬふりを決めこんでいる。
アメリカは批判しているが、それも人道的に許せないからというよりは、米中関係が冷えこんでいるから中国の力をそぐための「カード」として使っている面が大きそうだ。
今後の米中関係の変化によっては、あっさり無視されることになるかもしれない。
(日本の拉致被害者問題が政治的なカードとして使われているだけだから、日朝や米朝の関係によってすぐに引っこめられるのと同じように)

結局力があるからやりたい放題できる、力のない国は何も言えない、という現実をウイグル問題ははっきり映しだしている。
国際社会も結局は力の強いものが勝つのかよ、力こそが正義なのかよ、と悲しくなる。

まあ中国だけじゃないよね。
アメリカ軍によるアブグレイブ刑務所での捕虜虐待だって、あれをやってたのが小国だったならまちがいなく政権がふっとんでるはず。でもアメリカだからなあなあで許されたわけで。
現実って悲しいなあ。



そういえば、少し前に「もしも日本が島国でなかったらどうなってただろう」とブログに書いている人がいた。

もしも日本が島国じゃなかったら、もしも中国と地続きだったなら、今の日本は独立国家ではなく「中華人民共和国の日本自治区」だったかもしれない(邪馬台国はそれに近い扱いだったわけだし)。
そう考えるとウイグル問題はぜんぜん他人事じゃないよ。
いや海があるからって安心できない。「日本自治区」になって迫害される日が来ないともかぎらないよ、ほんとに。


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