ウイグル人に何が起きているのか
民族迫害の起源と現在
福島 香織
まずはウイグルについて。
ウイグル族は、中央アジア(今のカザフスタン・ウズベキスタン・キルギス)などに住む民族。中国西部にも多く住んでおり、主に新疆ウイグル自治区という場所に住んでいる。
で、この本の「ウイグル」は新疆ウイグル自治区のことを指す。
一応国際的には中国の一部ではあるが、中国の多数派である漢民族とは人種も言葉も宗教も違うわけで、実質は半独立国家としてやってきた。
ところが、2014年のウルムチ駅爆発事件(習近平国家主席の暗殺未遂事件。犯人の中にウイグル人がいたとされる)をきっかけに、ウイグル自治区への締め付けが強化。
ウイグル人である、イスラム教徒であるというだけの理由で中国共産党から様々な迫害を受けるようになった……というのをまず前提として知っておいてもらいたい。
中国の自治区といえば、ちょうど北京オリンピックのタイミングでチベット自治区への弾圧がわりと話題になった。今はすっかりニュースにならなくなったが、新奇性がなくなったから報道されなくなっただけで今も弾圧は続いているのだろう。
今は香港のデモがニュースになっているが、こちらもそのうち世界の関心が失われていくだろう。中国はそれを待っているのかもしれない。
ウイグル人が弾圧されていることはちらっと聞いていたが、詳しいことはまるで知らなった。
『ウイグル人に何が起きているのか』に書かれていることはぼくの想像よりもずっとひどい現実だった。
仮に囚人や捕虜に対する扱いだったとしても、非人道的と言われるレベルだ。
ましてや、罪のない人に対する「再教育」なのだから、到底許されるような話ではない。
(「115kgあったオムルの体重は60kgにまで減っていた」だけは、数字だけ見ると健康的でいいじゃないかとおもってしまった。すまぬ)
欧米のジャーナリストらもこういう現実を指摘しているが、中国国内ではなかなか信じてもらえないらしい。
信じたくない気持ちもわかる。いくらなんでも自分の国はここまでひどいことはしないだろう、と思いたくなる気持ちは。
ぼくもショックだった。
これが北朝鮮の話だとかアフリカの独裁軍事国家とかの話であれば、「まあ世界にはそんなひどい国もあるだろう」とすんなり受け入れていたとおもう。
しかし、中国のような大国が、もうすぐ世界一の経済大国になろうかという国が、国連の常任理事国が、まさかこんなひどいことをするなんて。
大躍進政策の惨状だとか文化大革命だとか天安門事件での非道なおこないは知っていたが、ぼくにとっては歴史上の出来事だった。
ドイツのナチスやカンボジアのポル・ポトと同じような「過ぎ去った時代の話」だった。
しかしよく考えたら、ナチス政権やポル・ポト政権と中国共産党には大きな違いがある。
ナチスやポル・ポトは政権崩壊したのに対して、中国共産党は今もずっと政権を握ったままだということだ。根っこのところはそんなに変わっていないのかもしれない。
国内にいる少数民族を弾圧するだけではなく(それもひどいが)、国外にいる人まで半ば強制的に呼び戻して身柄を拘束するというのだからおそろしい。
いい仕事があるとだましたり、戻らないと家族がどうなってもしらないぞと脅したり、その国に対して経済的な圧力をかけたりして、あの手この手で連れ戻そうとする。
なにもそこまでしなくてもとおもうが、内情が外国に知れ渡ることを恐れているのだろう。
「再教育施設」に入れられたウイグル人は、人体実験をさせられたり、強制的に臓器を摘出されているのではないかと言われているそうだ(はっきりした証拠こそないものの、異常に高い臓器移植件数などを見るかぎりはそうとしかおもえない)。
ひええ。ヤクザじゃん。いやいまどきヤクザでもここまでしないだろう。
さっきも書いたが、なによりおそろしいのはこれをやっている中国が世界ナンバーワンの経済大国になろうとしていることだ。
やっていることは東アジアのならず者国家とされている北朝鮮よりひどいじゃないのか、とおもえる。
けれどそれが(表面上は)大きな問題にならないのは、北朝鮮より軍事力があって経済的影響力も大きいからだ。
中国から経済援助を受けている国は中国共産党に逆らえない。日本外務省も、ウイグル問題については見て見ぬふりを決めこんでいる。
アメリカは批判しているが、それも人道的に許せないからというよりは、米中関係が冷えこんでいるから中国の力をそぐための「カード」として使っている面が大きそうだ。
今後の米中関係の変化によっては、あっさり無視されることになるかもしれない。
(日本の拉致被害者問題が政治的なカードとして使われているだけだから、日朝や米朝の関係によってすぐに引っこめられるのと同じように)
結局力があるからやりたい放題できる、力のない国は何も言えない、という現実をウイグル問題ははっきり映しだしている。
国際社会も結局は力の強いものが勝つのかよ、力こそが正義なのかよ、と悲しくなる。
まあ中国だけじゃないよね。
アメリカ軍によるアブグレイブ刑務所での捕虜虐待だって、あれをやってたのが小国だったならまちがいなく政権がふっとんでるはず。でもアメリカだからなあなあで許されたわけで。
現実って悲しいなあ。
そういえば、少し前に「もしも日本が島国でなかったらどうなってただろう」とブログに書いている人がいた。
もしも日本が島国じゃなかったら、もしも中国と地続きだったなら、今の日本は独立国家ではなく「中華人民共和国の日本自治区」だったかもしれない(邪馬台国はそれに近い扱いだったわけだし)。
そう考えるとウイグル問題はぜんぜん他人事じゃないよ。
いや海があるからって安心できない。「日本自治区」になって迫害される日が来ないともかぎらないよ、ほんとに。
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