2019年5月10日金曜日

【読書感想文】主婦版サラリーマン小説 / 加納 朋子『七人の敵がいる』

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七人の敵がいる

加納 朋子

内容(e-honより)
編集者としてバリバリ仕事をこなす山田陽子。一人息子の陽介が小学校に入学し、少しは手が離れて楽になるかと思ったら―とんでもない!PTA、学童保育所父母会、自治会役員…次々と降りかかる「お勤め」に振り回される毎日が始まった。小学生の親になるって、こんなに大変だったの!?笑って泣けて、元気が湧いてくる。ワーキングマザーの奮闘を描く、痛快子育てエンターテインメント。

PTA役員、学童保育の父母会役員、自治会役員……。
こういうの自分とは無縁とおもっていたけど、そうも言っていられなくなった。

一昨年、長女の保育園の役員をした。
去年と今年は住んでいるマンションの住民会の役員をしている。
来年、娘は小学生。学童保育にも入れるつもりなので、そこでも諸々の役員業務がついてまわるだろう(個人的にはPTAは入会拒否したいのだが妻は「子どもの立場があるから……」と及び腰だ)。次女も保育園に行くから、そこでも役員はまわってくる。
うちは共働きだが、保育園や学童保育に通わせている家庭なんてみんな共働きなのでそんなことは言い訳にならない。なにしろシングルマザーとか三つ子とかもっとたいへんな家庭も役員をやっているのだ。


しかしなあ。
役員会というのに出席したことあるけど、ほんとに効率悪いんだよなあ。
マニュアルがなくて口頭の伝達、前年の反省がまったく活かされない、役員自身が何をやるのかわかっていない……。
「波風を立てたくない」「なんとか今年さえ乗り切ればあとはどうでもいい」という事なかれ主義が蔓延していて、誰も改善とか効率化とかをしようとしない。そして令和時代になっても旧弊が代々受け継がれてゆく……。
まあぼくも旧弊を翌年にバトンタッチしている人間のひとりなのでえらそうなことは言えないけど……。

だって効率化したって自分には何の得もないもん。マニュアル作ったり改革を手がけたりしたって、翌年以降が楽になるかもしれないけど自分は苦労するだけだもん。

ねえ。ほんとなんとかならんのか。
お金で解決できるんじゃないの。
保育園の役員なんて、いっそ仕事にしたらいいのに。近所の年寄りにパートタイムで働いてもらって。
土曜日や平日の昼間をつぶされるぐらいだったらいくらか払うし。


ぼくは「そんなに親しくない人に嫌われてもかまわない」という人間なので、PTA脱退とか「役員やりたくありません」と断るとかもぜんぜん辞さない覚悟だけど、「そのせいで娘が居心地悪くなるかも……」とおもうとやっぱり気が引ける。
できるだけ穏便に、少々の面倒なら引き受けてでも波風を立てず……とおもってしまう。

『七人の敵がいる』には「子どもを人質にとられている」という表現が出てくるけど、これは言い得て妙。
子どもの立場を考えると言いたいことも言えず……って人が多いから悪習がいつまでも続いてしまうんだろうな。

(自分以外の誰かが)なんとかしてくれ、とおもっているだけじゃいつまでたっても変わらない。
自分の子が小学校に入ったときは(あまり敵をつくりすぎない範囲で)戦うぞ、とこの小説を読んで弱く決心した。



幼い子を持つぼくにとってこの題材はすごくおもしろかったけど、小説としてはちょっとものたりない。

勧善懲悪的なスカッとするストーリー、主人公を筆頭にわかりやすく直情的な登場人物、はじめは嫌なやつと思っていた人も腹を割って話してみればみんないい人……と朝ドラを観ているよう。
月曜日に問題が発生しても土曜日には解決してる、みたいな(朝ドラってそんなイメージ。あんまり観たことないけど)。
人物に深みがないし、そんなうまくいくかよと言いたくなることばかり。

これはあれだな。
主婦版のサラリーマン小説だな。『PTA役員・島耕作』だ。

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