小さな私設図書館が増えているのだという。
ああ、いいなあと思う。
ぼくも本が好きだから家にはたくさん本があるが、その大半は二度と読み返すことのない本だ。
将来自分の子どもや孫が手に取ってくれたらうれしいけど、あまり期待できそうにない。ぼくの母親も本好きだったから家には母の本がたくさんあったけど、そのうちぼくが手にしたのは1パーセントくらいだ(その1パーセントが拓いてくれたジャンルというのはすごく大きかったけど)。
子どもがぼくの蔵書の1パーセントでも読んでくれたら上出来といったとこだろう。
「私設図書館、やってみようかな」と思う。だが待てよ。
ぼくがこの世でもっとも憎む存在のひとつが「借りたものを返さない輩」だ。
ほんとに許せない。
姉がそういう人だった。ぼくの本やCDを「それ貸して」と言って持っていく。そして返さない。
姉が性悪なわけではない。「そういうことを気にしない」人なのだ。だから自分が貸したものが返ってこなくても気にしない。
でも「そういうことを気にする」ぼくからすると、悪意がないのがまた憎らしい。
ぼくの感覚では、借りたものは最優先で読む。CDならさっさとテープやMDに取り込む。そしてすぐに返す。
毎日顔を合わせる家族であれば、「本なら一週間以内、CDなら二日以内に返す」というのがぼくの"常識の範囲"だ。
それを過ぎると「あれもう読んだ?」「CD、録音した?」と訊く。ことあるごとに訊いていると、迷惑そうな顔をされる。こちらも嫌がる相手に理不尽なことを言っているようで、申し訳ない気持ちになってくる。
でもよくよく考えれば借りたものを返せというのは理不尽でもなんでもない。CDなんてその気になればすぐに録音できるし、本なんて読むのが遅い人でも一週間もあればたいていの本は読める(漫画なら一冊一時間あればいい)。それをする時間がないのなら、そんなときに借りなきゃいい。
そんなわけで姉とは何度か喧嘩になって、「なんでこっちが善意で貸してやってるのに嫌な気持ちにならなきゃいけないんだ」と思い、あるときを境に一切ものを貸すのをやめた。「貸して」と言われても断るようにした。
レンタルビデオ屋でアルバイトをしていたことがある。
「借りたものを返さない輩」を許せない人間がレンタルビデオ屋で働くなんて自殺行為と思うかもしれないが、そのとおり、すごくストレスフルな日々だった。
世の中にはこんなにも借りたものを返さない人間が多いとは知らなかった。
いや、べつに遅れるのはいい。延滞料金もらってるわけだから。店としてはじゃんじゃん遅れて延滞料金を払ってもらえるのは助かる。
でも「なんで延滞料金払わなくちゃいけないの」とか「ちょっとくらいいいじゃない」とか言ってくる客の神経が理解できない。
「一日遅れただけで三百円って高すぎない?」だったら、わかる。ぼくも同感だ。一週間レンタル三百円のDVDでも、一日遅れたら三百円になる。たしかに高い。
でも「なんで払わなくちゃいけないの?」と言う人間の気持ちはとうてい理解できない。逆に訊きたい。「なぜ約束の期日を守らなかったのに何のペナルティも受けずに済むと思えるの?」
そういう客は、当然ながら「人から借りたものはなるべく借りたときと同じ状態で返す」という考えもないから、DVDを傷だらけにして返してきた。
そういやぼくの姉も、CDの歌詞カードを反対向きにしたり、二枚組CDのDISC1とDISC2を逆にして返してきたりしてた。些細なことだけど、こういうのを気にしない人は、借りたものを返さなくても平気なんだろうなあ。
そんな性分だから、もしぼくが私設図書館なんかはじめたら、借りた本を返さないやつはぜったいに許さない。
上下巻の上巻だけ借りて返さないやつがいたら、首を絞めてやる。
借りた本を返さないまま死んだやつがいたら、お通夜に乗りこんでいって「故人が借りてた本、返却期限とっくに過ぎてるんですけど。香典ということにしときましょうか? それとも棺に入れていっしょに焼きます?」と遺族に対して言わなくてもいいいやみを言う。
踏み倒すやつが許せないから、ぼくの私設図書館で本を借りる人には、免許証のコピーと身元保証人の実印を提出してもらう。あと保証金も預からせてもらう。そして滞納するやつは地獄の果てまで取り立てにいく。
誰が本を借りるんだ、そんな私設図書館。
つくづく図書館員に向いていない性分だ。
貸したものが返ってこないことが許せないんじゃない。「借りたけど返さなくてもいいや」と思える(というか返さないやつはそれすら思わないんだろう)神経が許せないんだ。
ぜったいに遅れるなとは言わない。ただ、返すのが遅れたら済まなさそうにしろ。催促される前に自分から「すみません、遅れます」と言え。貸したほうに気を遣わせるな。
それができないやつは、さっさと鬼に追いたてられながら鉄の棘の上を永遠に走らされる畏熟処地獄に落ちてくれ。その鬼は、本を貸してあげたのに催促して嫌な顔をされた側の怨念だぞ。
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