2023年10月24日火曜日

キングオブコント2023の感想

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 キングオブコント2023



カゲヤマ(謝罪)

 手を変え品を変えお尻を出すコント。まずお尻を見せてインパクトを与え、その後は「どう見せるか」大喜利状態。両側で見せる、上半身はスーツ、立ち上がって見えそう、クロス引き、と様々なパターンで尻を見せて飽きさせない展開。

 非常にばかばかしくて、うちの五歳児は大笑いしていた。五歳児が審査員だったらまちがいなく優勝。

 気になったのは、ツッコミ役である部下がどう見ても若手には見えないところ。顔も体型も重役だもの。

 尻を出して笑いを取るのはずるいよなあとおもいつつ、でもトップバッターでドカンとウケるにはこれぐらいしなきゃだめだよなあ。トップでファイヤーサンダーみたいなスマートなコントをやっても通過できないもの。

 これ、今の時代だから「そんなわけねえだろ」と笑えるけど、三十年前だったら「これをやらされてる会社もあるんだよなあ」で笑えなかったかも。


ニッポンの社長(喧嘩)

 海外に旅立ってしまう女性をめぐって、友人でもある男同士が殴り合う、という手垢ベタベタなシチュエーションでスタート。後半のシュールさを際立たせるためにあえてベタな設定にしたのだろうが、それにしてももうちょっと真面目にドラマを作ってほしいとはおもう。

 片方があくまで拳で語り合おうとしているのに、もう一方がナイフを持ち出したところで空気が一変。ここでしっかりウケたのはカゲヤマが場をめちゃくちゃに壊してくれたおかげだろうね。そうじゃなかったらいきなり刺すところでヒかれてたんじゃないかな。

「友だち同士の喧嘩なのに凶器を持ち出す」「どれだけ攻撃されてもまったく致命傷を負わない」というだけのコントなのに、「もっと本気で来いよ!」などの挑発的なセリフで飽きさせない。ただし凶器を持ち出すことへの笑いはピストルぐらいまでで、それで死ななければあとは手榴弾だろうと地雷だろうと同じだよなあ。武器をエスカレートさせていくのではなく、セリフやストーリーでさらに盛り上げてほしかった。あるいは手榴弾よりもさすまたみたいなシンプルな道具のほうがおもしろい。


や団(灰皿)

 灰皿を投げつけて厳しく指導する舞台演出家(蜷川幸雄が灰皿を投げて指導していた、というエピソードはどこまで知られているのだろう?)。だがサスペンスドラマの凶器に使われるガラス製の重たい灰皿を置かれたことで役者側にも演出家側にも緊張感が増し……。

 なんだか前半がごちゃごちゃしていたな。後半で「ああこれは灰皿を投げるかどうかの葛藤を描いたコントなんだな」とわかるが、前半に「演出家が難解で不条理な言葉を並び立てる」という小さなボケを入れたことで、本筋がぼやけてしまった。演出家のキャラで押していくコントかとおもって見てしまったんだよね。

 灰皿がカタカタ音を立てながら回る瞬間の緊張感はすばらしかった。机の端っこで落ちそうで落ちなかったのもまた。


蛙亭(お寿司)

 急に彼氏にフラれて泣いている女性の前で、キックボードに乗った男が転倒し、大好きなお寿司がつぶれたと泣きはじめる……。

 中野くん(こんなにもくん付けで呼びたくなる人はそういない)の魅力と「慣れない交通手段」「ぼくのために」「でもつぶれたわけじゃないですよね」などの切れ味鋭いセリフで、前半は大好きな展開だった。

 ただ中盤で、中野くんが「そういうところなんじゃないですかぁ!?」と女性を責めはじめるところで急に心が離れてしまった。

 中野くんの魅力ってにじみ出る圧倒的な善性、無邪気さだとおもうんだよね。敵意、悪意、嫉妬などをまったく感じさせないぐらいの善性。善すぎて気持ち悪いという稀有なキャラクター。だからおもしろい。純粋に善なるものって気持ちわるいもんね。

 なのに「ただただ純粋にお寿司が大好きな人」が「他人に説教をしはじめる人」になっちゃって、その魅力が急速に損なわれてしまったなー。


ジグザグジギー(市長記者会見)

 芸人だったという経歴の新市長。その記者会見での市長のプレゼンが妙に大喜利っぽくて……。

 今回いちばん笑ったコント。特にあのフリップの出し方、間、姿勢、表情、完璧に大喜利得意な芸人のそれだった。

 ただ、飯塚さんの審査員コメントがすべて物語っていたように、当初は「大喜利得意な芸人っぽいふるまい」だったのに、途中からは完全に松本人志さんのものまね&IPPONグランプリのパロディになってしまったことと、IPPONグランプリのナレーション、笑点お題と現実離れした安いコントになってしまったのが残念。序盤は丁寧に市長を演じていたのに。

 前半の風力がすごかっただけに後半の失速が残念。IPPONグランプリのあたりをラストに持ってきていたら……とおもってしまうなあ。


ゼンモンキー(縁結び神社)

 縁結び神社の前で、ひとりの女性をめぐって喧嘩をはじめる二人の男。そこへ学生が願掛けにやってくるが、どうやら彼もその女性のことを好きらしく……。

 いやあ、若いなあという印象。筋書きはきっちりしているが、精緻すぎるというか。つまり遊びがない。誰がやってもそんなに変わらないようなコント。がんばっていいお芝居をしましたね、という感じがしてしまう。学生役の荻野くん(これまたくん付けで呼びたくなる)のキャラクターはあんまり替えが効かないだろうけど。

 これで三人のキャラクターが世間に浸透して、人間自体のおもしろさが出てきたらすごいトリオになるんだろうな。


隣人(チンパンジーに落語)

 チンパンジーに落語を教えることになった落語家。毎日動物園に通ううちに徐々にコミュニケーションがとれるようになっていき……。

 ううむ。話はおもしろいんだけど(特に落語家がチンパンジー語を話し出すところは秀逸)、微妙な間やトーンのせいだろうか、「もっとウケてもいいのにな」とおもうところがいくつかあった。最初の「チンパンジーに落語を教える仕事」とか、BGMがチンパンジー語だったとことか、場によってはもっとウケるんだろうなあ。

 隣人というコンビを知っていて、さらに隣人のチンパンジーネタをいくつか観たことがあったら(隣人はチンパンジーのネタを何本も持っている)、より笑えるとおもう。


ファイヤーサンダー(日本代表)

 サッカー日本代表のメンバー発表を観ているふたり。代表選出されずに落胆するが、選手本人ではなく選手のモノマネ一本でやっているモノマネ芸人であることが明らかになる……。

 以前にも観たことがあったネタだけど、やっぱりおもしろい。脚本の美しさは随一。無駄がない。前半でモノマネ芸人であることが明らかになり、中盤で隣の男が監督のモノマネをする芸人であることが明らかになるところが実にうまい。「なんで自宅のテレビで観ているんだろう」「この隣の男はどういう関係なんだろう」という観客の違和感を、ちょうどいいタイミングで笑いで吹き飛ばしてくれる。

「なんで日本代表より層熱いねん」「決定力不足」みたいな強いツッコミワードもあって、コントとしての完成度はいちばんだとおもう。


サルゴリラ(マジック)

 テレビ番組出演前にマジックを披露するマジシャン。だが披露するマジックがわかりづらいものばかりで……。

 んー。個人的にはまったくといっていいほど刺さらなかった。「マジックで入れ替えるものがわかりにくい」ってわりとベタなボケだとおもうんだけど(マギー司郎さんがやってなかったっけ?)。

 あのマジシャンがマジック特番に抜擢された理由もわからないし、あの音楽が効いてくるのかとおもったらそうでもないし、脚本が甘く感じた。ゼンモンキーとは逆に、人間味でもっていった感じかな。


ラブレターズ(彼女の実家)

 彼女の実家に結婚のあいさつに行った男。彼女のお母さんが「マンションでシベリアンハスキー放し飼いにしてるのどうかしてるとおもった?」と言い出し、隣人トラブルを抱えていることが明らかになり……。

 やろうとしてることはわかるけどどうも弱さを感じるというか。これはあれだな、少し前に『水曜日のダウンタウン』でやっていた「プロポーズした彼女の実家がどんなにヤバくてももう引き返せない説」がすごすぎたせいだな。あの「説」では静かな狂気をすごく丁寧に描いていたので、それに比べるとラブレターズのコントは雑で、つくりものっぽさが目立ってしまった。

 ほんとに隣人トラブルを表現しようとしたらあんなわかりやすく大きい音を出しちゃだめだし、かといってぶっとんだ世界を表現するにしては弱すぎるし。




 最終決戦。


ニッポンの社長(手術)

 外科手術をおこなっている医師と患者。臓器が次々に摘出され……。

 ごっつええ感じっぽいな、とおもった。ああいう視覚的にグロテスクなコント、よくやってたよね。ただ強くツッコまないのがニッポンの社長らしい。ちゃんと手術室でツッコむときの音量なんだよね(手術室でのツッコミを聞いたことないけど)。おしゃれ。

 黄色いコードはニッポンの社長にしてはベタだと感じた。大喜利とかでよく使われる題材なので。

 想像を超えてくる展開はなかったけど、ラストの「あるやつですわ」「ないやつやろ」は好き。


カゲヤマ(デスクにウンチ)

 オフィスで上司のデスクにウンチが置いてあった事件の犯人が信頼できる部下だったことがわかる、というコント。

 冒頭を観たときは安易な下ネタコントかとおもったが、いやはやとんでもない、人間の心理の複雑さを鋭く描いたヒューマンドラマだった。

 部下が犯人であることが明らかになったときのセリフが、言い逃れでもなく、開き直りでもなく、動機の独白でもなく、「私はこれからどうしたらいいでしょう」。この妙なリアリティ!

 さらに部下が話せば話すほど、彼の常識人ぶりが明らかになり、だからこそ「上司のデスクにウンチをする」という異常さが際立つ。謎は解明されるどころか深まるばかり。

 こういう脚本を書くのって勇気がいるとおもうんだよね。人間には謎を解明したいという欲求があるから。でも謎を謎として残しておくことで観ている側の想像は膨らんでゆく。今、この瞬間だけでなく、これまでのことやこれからのことにまで想像が膨らむ。

 ただ「娘さんをぼくにください!」は早急すぎた(「娘さんとお付き合いさせていただいています!」まではいい)。あそこだけが少し雑だったな。


サルゴリラ(魚)

 引退することになった野球部の三年生主将に向かって監督がいい話をはじめるのだが、なんでもかんでも魚にたとえるのでまったく伝わらない……。

 やっぱりぴんと来なかった。設定が雑すぎないか。

 とても学生には見えない見た目なのは百歩譲るとして、あの監督は今日突然魚の話をはじめたの? それとも普段からなんでもかんでも魚に例える人なの?

 前者だとしたら「どうして今日はそんなに魚に例えるんですか」みたいなセリフになるだろうし、後者だとしたら「前々から言ってますけど」とか「もう最後だから言いますけど、ずっとおもってたんです」みたいなセリフになるのが自然だろう。

 でもサルゴリラの芝居はどっちでもない。まるで、今日はじめて会った人から話を聞いたようなリアクションだ。「昨日までこのふたりがどんな会話をしていたか」がまったく見えてこない。

 また、他の部員の姿も一切感じられない。野球部の引退にあたっての監督のスピーチなんだからあの場には数十人がいるはずなのに、まるでその気配がない。

 コントのためだけの空間で、コントのためだけの存在なんだよね。ニッポンの社長みたいなコントだったらそれでもいいんだけど、「小さな違和感」系のコントで設定の薄っぺらさは致命的じゃないか?




 個人的な好みでいえば、ジグザグジギー、ファイヤーサンダー、カゲヤマ(2本目)がトップ3。

 審査結果は個人的な好みとはちがったけど、ま、そんなときもあるさ。今回はいつもにも増してシナリオよりもパワー重視の審査だったね。


 ぼくが今大会でいちばんよかったとおもったのは、出番順が早い組が上位に入ったこと。トップバッターのカゲヤマが1stラウンド2位、2番手のニッポンの社長が1stラウンド3位。

 早い出番の組がこんなに上位になったのは近年の賞レースではなかったことだ。それだけトップのカゲヤマがよかったんだろうね。


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