2023年10月26日木曜日

【読書感想文】浅暮 三文『七転びなのに八起きできるわけ』 / 雑学集

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七転びなのに八起きできるわけ

浅暮 三文

内容(柏書房HPより)
すべてのことわざには謎(ミステリー)がある!――
「《七転び八起き》だと数が合わないんじゃない?」「《棚からぼた餅》が発生する傾きは?」「《へそが茶を沸かす》ための条件とは?」「《二階から目薬》で殺人は可能?」「《捕らぬ狸の皮算用》の見積もり額は?」「《穴があったら入りたい》ときの穴の深さって?」――普段、何げなく口にしていることわざや故事成語・慣用句だが、いざその言葉の表す意味を〈検証〉してみると、謎や矛盾に満ちたものだったり、現実にはありえないシチュエーションだったりするものがいかに多いことか。さらに、誤解に基づく事象を語源としている場合もあり、かならずしも〈真実〉をついているとは言い切れないものばかりなのである。
こうした「ことばの謎」の数々を前に、ミステリ作家・浅暮三文が立ち上がる! 時に論理的、時に妄想を爆発させて展開、単なる語源的解説にとどまらない自由な発想を駆使した、言葉にまつわる「イグノーベル」的考察を存分に楽しめる超絶エッセイ!!


 ことわざの「謎」についてあれこれ考察をめぐらせたエッセイ。科学、歴史、社会学などの知識を駆使してあえてことわざにつっこむ、という空想科学読本的な本だ。

 すべてのエッセイが「私はミステリー小説家である」の一文で始まり、けれど話はあっちに行き、こっちに飛び、右往左往したままどこかへ行ってしまう。早い段階でことわざとは関係のない話になることもしばしば。

 自由なおしゃべり、という感じだった。




 エッセイとしてはとりとめがないが、随所にちりばめられている豆知識はおもしろかった。


『「二階から目薬」による殺人は可能だが、コントロールがいる。』の章より。

 さらに空調を設置した居室内の風速は○・五メートル/秒以下にするようにも決められている。理想は○・一五〜〇・二五メートル/秒。○・一メートル/秒以下になると人間には風と感じられないそうなんだ。
 ここで気象庁からお知らせが届く。気象学では落下する水滴、直径〇・五ミリ以上の物を雨と呼ぶ。そして落下速度は直径○・一ミリで毎秒二十七センチです。通常観測される雨の滴は直径二~三ミリ以下なのですよ。
 あなたの手元に目薬があれば調べて欲しい。したたる一滴はノズルの半分ほど、三ミリぐらいのはずだ。まさに雨と同程度である。となると無風と思われる室内、風速◯・一メートル/秒の状況でも、高さ二・一メートルの天井から目薬を落とすと、どんなに目の真上からさしても、およそ半秒かかる着地までに十センチずれることになる。
 成人の眼球は四センチほどだから、これは相当に難しい点眼作業だ。よほどのコントロールを必要とする。

 二階から目薬をさすと、無風とおもえる室内でも風に流されてずれる。江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』は、屋根裏から下で寝ている人に向かって毒薬を垂らして殺害するという話だが、現実には相当むずかしいみたいだね。昔の家だから今よりずっとすきま風も入っていただろうし。




『「火のない所に煙は立たぬ」どころか人間まで燃える。』の章より。

 科学の世界の発火だけでなく、火の元の原因となる身近な品々もある。まず台所の電子レンジだ。さつま芋や肉まんを長く加熱すると爆発的に燃焼するらしい。東京消防庁の実験映像では五分半で肉まんから煙が出て、六分でどかんと爆発している。うまいものは早く喰うにこしたことはない。
 続いて風呂場の乾燥機。油や塗料が付着したタオルや衣類を放り込んで使うと油が熱風で乾燥して酸化、発熱するのだ。アロマオイルを拭いた雑巾や調理師のエプロンは要注意。おまけにリビングの花だって勝手に燃えてしまう。
 欧米で観賞用として人気のあるゴジアオイなる植物は茎から揮発性の油を発し、三十五~五十℃の気温で発火し、自身も周りの草花も燃やしてしまうそうだ。この花の種子は高温に耐えるため周りを焼き畑にして繁殖するらしい。米テキサスではトルティーヤチップスを入れていた箱が気温の上昇によって自然発火した。やはりうまいものは早く食わねばならない。米国の製粉所では小麦粉が爆発した。微細な粉塵はちょっとした火の気でどかんといくのだ。砂糖やコーンスターチも同様で流しの下は爆弾の貯蔵庫といっていい。

 己も含めて、周囲一帯を燃やしてしまう植物があるそうな。なんちゅう怖い能力。蔵馬が使う魔界の植物じゃん。




『「蛇に睨まれた蛙」は剣豪並みに強い。』の章より。

 蛇に睨まれた蛙は動かなくなるが、それは蛇をビビっているわけではないそうだ。

 だが「蛇に睨まれた蛙」はヘビが恐いのではなかった。最近の京都大学の研究から剣豪の戦法である「後の先=後手に回ることで効果的な反撃」を取っていたと判明したのだ。ヘビとカエルが睨みあって静止している現象は既存の動物行動学の考えでは説明がつかなかったという。両者が出会うとヘビは体格的に優れているが接近するものの、すぐに襲わずにいる。なぜか。
 一方、カエルもすぐ逃げず、ヘビが襲いかかるか、一定の距離に近づいてから逃げる。つまりヘビに先手を許す不利な行動を取る。なぜか。どちらも変だということで、食うか食われるかの関係にあるシマヘビとトノサマガエルで調べてみたそうだ。
 するとカエルの行動が起死回生の策であると判明した。カエルは逃げるために跳躍するのだが、跳んでから着地までは進路を変更できない。そのために先に跳ぶとヘビに動きを読まれる恐れがある。
 ヘビも噛みつこうとすると体が伸びるが、再び体を縮めないと移動できない(蛇腹のように)。つまりどちらも食うか食われるかの際、一方通行なのだ。
 ヘビが伸びた蛇腹を元に戻して体を再び動かせるまで〇四秒が必要という。だからへビが動いてから攻撃を避ければ、カエルはさっと安全圏に逃れられることになるそうな。ヘビとカエルの睨みあいは五~十センチの距離まで詰められ、それを越えると、どちらかが先に動くが、対峙した両者が、その刹那となるまで長い場合は一時間も構えあっているという。もはや無想の境地である。

 ふつうに考えれば、捕食者と敵対したとき、一瞬でも早く行動を起こしたほうがいい。だが跳躍中に方向転換のできないカエルは、やみくもに跳ぶと格好の餌食になってしまう。だから蛇の動きを見てから動こうとする。一方の蛇も、蛙の動きを見てから攻撃を開始したいのでじっと機を待つ。

 一時間以上も互いを牽制しあう。まさしく宮本武蔵と佐々木小次郎の対決のようだ。




 ということで、エッセイとしては読みづらかったけど、雑学集としては十分おもしろい内容でした。


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