ホット・ゾーン
ウイルス制圧に命を懸けた人々
リチャード・プレストン(著) 高見 浩(訳)
いっとき、アフリカで大流行したとして話題になったエボラ出血熱。最近ではあまり話題にならないが(新型コロナウイルスが流行ったからね)、2019年にも流行しているし、いまだ治療法も予防法もわかっていない。いつまた広がっても、そしてアフリカ以外の地域で感染者が出てもおかしくない病気なのだ。
「すごく怖い病気」ということしか知らなかったが、この本を読むと、エボラ出血熱のおそろしさは想像をはるかに上回っていたことがわかる。
生きながらにして、内臓を破壊し、溶かしてしまう病気。感染した人はまるでゾンビのような見た目になるという(本物のゾンビは誰も見たことがないけど)。内臓が先に死んでしまうのだから、それも当然だろう。
ところで、タガメって昆虫知ってる? 田んぼとか小川にいるやつなんだけど。
こいつの餌のとりかたってのがほんとにおそろしくて、オタマジャクシとかフナとかにしがみついて、口から針みたいなのを刺して消化液を注入するのね。で、獲物の肉とか内臓を溶かして(骨まで溶かすそうだ)、それをちゅうちゅう吸うのだ。ああ、おっそろしい。
このタガメの捕食方法を知ったのは子どものころだったので身震いするほどおそろしくて、つくづくフナやドジョウに生まれなくてよかったとおもったものだ。生きたまま身体の内部を溶かされる死に方なんて最悪だもの。
その、フナにとってのタガメに相当するのがエボラウイルスだ。ヒトの身体にとりついて内臓を溶かしてしまう。おまけにタガメとちがってエボラウイルスは目に見えず、どんどん増殖してあっという間にヒトからヒトへと渡り歩く。
エボラウイルスの感染率は極めて高く、発病した場合の致死率は50%を超えるという(90%を超えたこともあったとか)。
感染しやすい、感染経路もよくわからない、かかったらとんでもない苦しみとともにほぼ死なせる、とどこをとっても最悪なエボラウイルスだが、これまでのところ、世界中に広がるような流行は見せていない。
これまで何度も流行したが、暴風雨のように人々を殺した後、しばらくすると消滅してしまう。なぜか。
エボラウイルスは狂暴すぎて拡がりにくい。なぜなら感染者がウイルスを別の人間に運ぶ前に死んでしまうから。皮肉なことに。
その点、数年前に大流行した新型コロナウイルスは、拡大するのにはちょうどよかった。致死率が低く(エボラウイルスに比べるとゼロみたいなもの)、潜伏期間が長く、感染者が別の個体へと運びやすかった。おまけに空気感染する。
ウイルスからすると「ヒトは生かさず殺さず上手に利用するのがいいぜ」ってな感じなんだろうね。
ただ、これまでエボラウイルスが世界中に大流行しなかったのはあくまで結果の話であって、今後も流行しないという保証はない。もっと感染力が高くて、空気感染するタイプの新種が出てきて、あっという間に全世界を覆いつくす可能性はある。
エボラウイルスは、アメリカでも感染拡大しそうになったことがあった。
研究所で飼われていたサルからエボラウイルスが見つかり、さらにそのサルに触れたり嚙まれたりした研究者に感染したのだ。
だが彼らは発症せず、感染もそれ以上拡がらなかった。
感染拡大しなかったのは、防疫努力もあったが、「運が良かったから」という理由も大きい。ということは、もしも運が悪ければ感染拡大していた可能性もあったわけで……。
人類はほとんどの病気をある程度コントロールできるようになったとおもってしまいがちだけど、ぜんぜんそんなことないんだよね。このさきどんなに医学が進んでも、永遠に病気には悩まされることだろう。新型コロナウイルス流行のときもおもったけど。
まあ老人がいつまでも死なない世界もそれはそれで悲惨なので、悪いことばかりではないけどさ。
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