ハナシがちがう!
笑酔亭梅寿謎解噺
田中 啓文
元ヤンキーの少年が噺家のもとに無理やり弟子入りさせられ、厳しい修行に耐える日々。そんな中でなぜか次々に事件が発生し、主人公が快刀乱麻の名推理で次々に解き明かしてゆく。そのうち落語のおもしろさに目覚めて噺家として成長してゆく……。
という、どこをとってもどこかで聞いたことがあるようなストーリー。「かつて新しかったもの」をつなぎあわせてつくった古臭い話、という感じだ。
要するに、ダサいんだよね。元ヤンが何かに懸命に取り組む、という設定が今の時代ではキツい。2004年刊行の本だからしょうがないんだけど。
『GTO』のドラマ化が1998年、『池袋ウエストゲートパーク』のドラマ化が2000年、『Rookies』のドラマ化が2008年。2000年前後はそういうのが流行ってたんだよねえ。「ヤンキーがかっこいい」時代が終わり、それでもまだギリギリ「元ヤンが一生懸命何かに取り組む姿がかっこいい」だった時代。そういや『SLAM DUNK』や『幽遊白書』にもその要素があるね。時代だなあ。
しかしちょっと無理のある設定でも、ミステリとからめてしまえばあら不思議、それなりに読める小説になるのである。
正直、ミステリはチープだ。かなり無理のある謎解き、手掛かりが少ないのになぜか主人公にだけは真実が見える、周囲の人間は警察もふくめてボンクラぞろいでちっとも真相にたどりつかない。それでもミステリと落語の筋とをうまくからめていて「よくがんばったな」という気になる。そもそもからめる必要があるのかといわれればそれまでなんだけど……。
悪い意味でも、いい意味でも、深みのない小説だったな。子ども向け漫画っぽいというか。
主人公には天性の落語の才能があり、どんなピンチもあっという間に解決して、毎回最後は「やっぱり古典落語ってすばらしい」に着地する……というご都合主義ストーリー。
とにかくわかりやすい(というかひねりがない)ので、「ほとんど小説を読んだことがないけどとにかくストレスなく読みればそれでいい人」におすすめする本としてはアリかもしれない。ヤングアダルト向けレーベルで出していればぜんぜんいいんだけど。
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