あとがきで橘玲氏がこう書いている。
この本の主張はほとんどこれに要約されている。
ぼくが大学時代、一般教養の授業で「囚人のジレンマ」に代表されるゲーム理論や、マルクス経済学や、フロイトやユングなんかを学んだ。講義で指定されているテキストは何十年も前に発刊されたものだった。
コンピュータの世界だと、十年前のテキストなんか何の役にも立たない。
ところが経済学や心理学の世界では、へたしたら百年前の理論が幅をきかせていたりする。あれだけ多くの人が研究しているのに、何の進歩もないのか?
まさか。
もちろん古いものが役に立たないわけではない。ダーウィンの進化論は(誤りもあるにせよ)大枠のところでは今でもさまざまな進化論の土台になっている。
だが、この本では、こんな例を説明している。
役に立たないならまだしも、誤解を生むだけのまちがった理論がずっと教育の現場では栄えつづけていたりする。
ぼくが中学校のときの教科書には「原子はそれ以上細かく分けることができない。ある原子から新たにべつの原子をつくることもできない」と書いてあったが、もちろんこれは真っ赤な嘘だ(たぶん今の教科書にも書いてあると思う)。
古い教科書で学んだ人が教師になり、自分が教わったことをそのまま次の世代にも教える。教科書を作っている人も今の研究なんか学んでいないから、何十年たっても何も変わらない。
新しいことをやっている人は学生に教えている時間がないし、教えている人は新しいことを学ぶ時間がない。
ぼくは、学生のときにリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』と池谷裕二の『進化しすぎた脳』を読んで、めまいがするほどの衝撃を受けた。
新しい知見を得て、学校で習ってきたことはなんだったんだ! と叫びたくなった(ドーキンスはそのときでもすでに生物学の世界では古典だったけど)。
「人はなぜ生きるのか」という問いに対する答えは、科学の世界ではとっくに明らかになっている。「遺伝子を残すため」が答えであり、脳はそのために設計されているから、人の行動はそれで説明がつく。もっと早く教えてほしかった。
以下、再び『「読まなくてもいい本」の読書案内』より引用。
ぼくもやはりAとDを選んだ。
シンプルだが、明快で力強い考え方ではないだろうか。
こういうことを知らずにミクロ経済学を論じた本をいくら読んでも無駄だとわかるだろう。
はたまた、「正義」についての脳の研究。
人間が善行をするのも罪を犯すのも、すべては「脳が遺伝子を残すための設計になっているため」だ。
ほどほどに正義感を持ち、ほどほどに悪いことをする人間が遺伝子を残す上で有利であったため、そういう人間だけの世の中になった。
すべては遺伝子を残すための戦略だ。
その事実を知っているかどうかで、ものの見え方はまったくちがう。
「ゴミの排出を減らすには」「臓器提供者の割合を増やすには」「脱税をさせなくするには」といった問題に対する進化行動学からの見事な解答も、この本では紹介されている。
最新の脳研究については、医学や薬学だけでなく、哲学や倫理学、心理学、経済学、政治学、法学、教育学なと、あらゆる学問に携わる人間が知っておくべきことだ。
古くて役に立たない考え方がわかるようになるし、なにより、新しい見方で世界をとらえられるようになるのはおもしろいことだから。
その他の読書感想文は
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